第11話 友達として
「着替えを持ってきて良かったよ。ランニング服だとその辺を出歩きたくないし」
花音は私服に着替えていた。全体的に白と水色が特徴の服装である。
俺は変装用の服装しか持ってきていないので遊ぶような服装には適していない。
「それよりどこに行く? あまり人通りがある場所だと困るんだけど。変な噂もあることだし」
「そうだね。えっと、どうしようかな」
遊びに誘ったのはいいのだが、その先を全く考えていなかった。
しかも俺たちは人通りのある場所を避けなければならない関係性でもある。
それを考慮して遊ばなければならないのだ。
どこかそんな都合のいい場所なんてあるだろうか。
「そうだ。じゃ、あそこに行こう」と、花音は思いついたように言う。
「どこ?」
「漫画喫茶」
ラブホテルから出てすぐのところにある漫画喫茶に俺たちは入った。
二人用の個室に案内される。後は好きな漫画やドリンクバーでジュースを持って個室に籠もる。
「なるほど。これなら人目は避けられる」
「好きな漫画を見られるし、最高だよ」
「花音ってよく漫画喫茶に来るの?」
「まぁね。家にはあまり置いてないからたまにこう言うところに来て読み漁っているんだ」
「そうなんだ」
意外と漫画好きと言う一面を知れた。しかも漫画喫茶に足を運ぶほど。
漫画には興味なさそうな意識高い系かと思ったが、そういう訳でも無さそうだ。
「オススメの漫画を教えてよ。私、今から読みたいからさ」
「オススメか。そう言われると難しいな」
いっぱいあるけど、コミック数が多すぎても辛いだろうしオススメするとしたら十巻以内で完結しているものが望ましい。
考えれば考えるほど、実はオススメをするって難しいものかも知れない。
「五分考えていい?」
「オススメを言うのにそんなにいる?」
「適当に答えたくないからさ」
と、花音は何を思ったのか。ジッと俺の顔を見つめる。
「いいよ。但し、真剣に考えてね。もしそれが面白くなかったら次から正規の料金を請求しちゃうかも」
「そ、それは困る」
「ははは。冗談だよ。でも、それくらい真剣に考えてくれる方が私としては有難い」
それから俺は五分間、真剣にオススメを考えた。
そして俺はあるタイトルの本を本棚から持ち出して花音へ差し出す。
「これが俺のオススメだ」
青春SF漫画で全二十一巻と言う一日で読み切るには難しい分量だった。
「それ、二部構成で一部は十巻までだから今日中に読めると思うよ」
「へぇ、てっきりラブコメを勧められると思ったけど、これはこれで面白そう」
「それは良かったよ。是非読んでみてくれ」
「うん。ありがとう」
花音は俺のオススメ漫画を読み始めた。
目の動きが異常に速い。ペラペラとページを捲るスピードも尋常ではない。
読み飛ばしているようで本当に読んでいるのかと思える速さだ。
十分も経たないうちに一巻を読み切る。
「次!」
「お、おう。速いな」
「私、速読出来るタイプだから」
二巻を受け取ると次々とページが捲られる。
俺は店内にあった無料のドリンクバーとアイスクリームを往復しながらまったりと花音の姿を観察していた。
三時間プランのうち数十分を残して花音は第一部まで読破した。
「フゥ。今日はここまでかな」
「ご感想は?」
「面白い。これ、アニメやっていないの?」
「アニメはやっていない」
「へぇ、こんなに面白いのにアニメないんだ。まぁ、ちょっとエグいところがアニメにさせにくいのかな?」
どうやら花音は気に入ってくれたようだ。勧めた甲斐があって良かった。
「一人だったら延長して読み切りたいところだけど、たっちーと遊んでいるのに一人だけ楽しむのは違うよね。ごめん」
「いや、漫画喫茶ってそう言うところだしいいんじゃないのか? 俺も気になった最新刊が読めて楽しかったし」
「ねぇ、もしたっちーが良かったらなんだけど……さ」
「ん?」
「二時間だけ延長してもいい?」
「そうだね。そうしようか」
その後、俺たちは延長して個室という空間で花音と密着する時間が続いた。
無言でお互い好きな漫画を読むだけだったが、一緒にいる時間は心地の良いものだった。
あ、そうだ。
こういうのを自分の作品に落とし込んでみたら面白んじゃないだろうか。
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