第7話 目指すべきもの

 

 セ○レ関係を知られたくない理由は花音側に影響があった。

 花音の通う学校は都内でも有名なお嬢様学校として名が知れている。

 それに花音は副生徒会長として活動しており、生徒や教員からの信頼も厚い。

 勉強は勿論のこと幼い頃から続けているボクシングジムでは全国大会女子の部では六位の実力があるとか。

 現在は大学受験のため、ボクシングから離れているようだが、勉強に落ち着きが出来たらまた再開したいとも言っている。

 ここまで聞くと栗見花音は華やかしい人生を送っており、今後にも期待がある人生であった。

 そうとも知らずに俺は彼女とセ○レ関係を結んでいるというよく分からない立ち位置にいる。


「花音って高スペックJKじゃないか。まじぱねぇ」


「どう? 私に隙はないわよ。常に先のことを考えているんだから」


「流石としか言いようがないよ。この先も安泰なんだろうな」


「有名大学に入ることが全てじゃない。今の時代って個人の実力が大事なんだよ。良い会社に入ったところでずっとこの会社で働ける訳じゃない。安泰なんて存在しないよ。だから私は個人の能力にも磨きをかけようって行動をしているの」


「個人の能力? それは一体……」


「これよ」


 花音が見せたのは資格の本である。

 それってこの間、本屋で買ったやつだ。


「資格?」


「学生の私に出来ることは勉強。だから将来に役立つ勉強を始めているって訳」


 資格本の中身を見たが、俺には理解できる内容ではなかった。

 お金や経済のことがビッシリと書かれていた。


「ちんぷんかんぷんって言いたそうね。確かに内容を理解しようとしても拒否反応が出る。それでも為になる内容だから良い勉強になるよ。たっちーも一緒に受験してみる?」


「するとしてももう少し簡単なものから始めたいかな。初心者にオススメの資格ならいいけど、簿記はちょっと俺には早い」


「なら一緒に勉強しようよ。資格の種類が違っても一緒に勉強すれば捗ると思うし」


 正直、俺に資格の勉強は性に合わないと思ってしまうが、ここで否定すると花音に悪い。せっかく俺のことを思って言ってくれているのに。

 それに資格や勉強はやって困ることなんて何もない。むしろ得。


「分かった。俺も何か受けてみるよ」


「本当? 絶対に断ると思ったのに意外だね」


「本当は断りたいと思ったけど、花音のことを見ていたら俺も何か取りたくなったよ」


「じゃ、取得する資格が決まったら教えてよ」


「分かった」


 俺は花音に誘われる形で資格の取得を目指すことになった。


「じゃ、そろそろ私、行くね」


「行くって歌っていかないのか?」


「カラオケボックスで待ち合わせたのは個室で人目を避ける為。別に歌うつもりで来た訳じゃないよ。どうしても歌いたいならたっちー歌っていきなよ」


「いや、俺カラオケ来たことないし持ち曲なんてものもないから」


「友達と行ったりしないの?」


「友達いないし……」


「あーそういうこと」


 飽きられたような貶されたようなトーンを少し落とし気味に花音は言う。

 セ○レ相手が友達すらもいないと思われただろうか。

 俺の交友関係は無いに灯しい。それに対して花音の反応が気になった。


「まぁ、友達っていうのは種類によるよね。ただ一緒にいるだけの友達だったり同じ夢を目的とする友達だったり自分の趣味と同じ友達だったり色々いる。私から言えることは……友達は選ぶべきかな」


 最もらしいことを言われた。花音の発言は参考になるし為になる。

 考えることが現実的だし、最もらしいものばかりだ。ずっと一緒に居たいタイプかもしれない。この子について行けば俺も成長できるのではないか。そう思えた。


「……っんーと。これにしようかな」


 花音はタッチパネルを取って曲を選ぶ。


「あれ? 帰るんじゃなかったの?」


「んー。まぁ、せっかくカラオケに来たのに何も歌わないっていうのもどうかと思ってさ。一曲だけ歌っていくよ。いいでしょ?」


「勿論」


 花音はマイクを手に取り、美声を発した。

 高い声が室内に響き、ライブ会場にいる気分だった。

 花音は歌も美味い。まさに隙がなく悪いところを探す方が難しいほどだった。


「ふぅ。少し楽しくなってきちゃった。もう一曲だけ歌わせて」


 それから花音は計三曲を歌い切って帰っていく。

 一人取り残された俺は聞いたことがある曲を入れて試しに歌ってみるが、人に聞かせられる代物では無いと悟った。

 誰かと行くのならもう少し練習が必要だろう。

 それから俺は時間ギリギリまで歌って退出した。

 花音とまともに喋れた俺は今後が楽しみになっている。

 その前に約束した資格はどうしようか。資格といっても幅広く何を目指せばいいのか分からない。

 その日の帰り、俺は本屋に寄って資格コーナーで考える。


「どれにしたらいいんだ」


 そんな悩む俺に一本の着信が入った。

 スマホの表示には『稲垣さん』と書かれていた。

 来たか、と思いつつ俺は通話ボタンを押して耳に当てる。


「もしもし。立川です」



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