第5話 自己紹介
塾内で花音と俺がセ○レ関係であると噂が流れている中、それを知る人物がいる。その事実に俺は少し動揺しながら聞いた。
「おい。誰なんだよ。俺たちの関係を知る人物って」
「同じ学校の友達。中学からの付き合いでずっと仲良しの子だよ」
「じゃ、その子が噂を流したってことか?」
「いや、そんなことをする子じゃないってことは私がよく知っている。それはありえない」
「でも他に知っている人っていないんだろ?」
「そうなんだけど……」
「その子に聞けないのか?」
「聞けるけど、もしそうだとしたらショックだよ」
「それは分かるけど、聞かないことには始まらない」
「分かったよ。今度聞いてみる。それよりも私とあなたが今、一緒にいるこの状況がマズイ。用がないなら早く立ち去ってもらえる? これ以上噂の火種を作りたくない」
「分かった。そっと消えるから安心してくれ」
「ありがとう」
「そう言えば花音って本名だったんだな。それに凄い賢いし優秀でビックリした」
「お互いのことは干渉しないって約束だったけど、そう言う訳にはいかないわね。今後のこともあるだろうし、また今度話し合いをしましょう。それでいい?」
「そうだな。そうしよう」
「じゃ、また時間が出来たら連絡する。それまで何もしないでね」
「うん。分かった」
俺は花音に見送られながらこっそりと姿を消した。
花音のことで知りたいことは山ほど出来たが、今は急ぐ話ではない。
その騒動から三日後のことである。
花音から呼び出しのメッセージが届いた。
『話し合いをしましょう』と位置情報を雑に送られた内容に俺は『了解』と添えて会うことになる。
基本、花音とのメッセージは会う約束のやりとりしかないので単調な文章が続くだけである。
いつも呼び出す場所は市内のラ○ホテルが中心であるが、今回はそれらとは別の場所だった。
「ここは……カラオケボックスか」
俺はすぐに行く準備をして位置情報の場所へ向かう。
着くと本人がその場にいるわけではない。
部屋番号だけ送られているってことはそこに来いと言う意味のようだ。
使用中の部屋にノックした俺は「どうぞ」と部屋の奥から返事がくる。
「よう」
部屋に入ると花音が部屋の中心に座っていた。スマホを弄りながらダルそうに突っ伏している。
「今日はカラオケボックスか。いつもと違って珍しいな」
「今日はヤらないわよ。言ったでしょ。話し合いって」
「それもそうだ」
俺は花音の横に腰を下ろした。
「改めて悪かったよ。付け回す真似をして」
「その件はもういいって言ったでしょ」
シーンとカラオケのBGMだけが流れる。
そう言えば花音と会えばすぐにベッドの上で流れるように進むだけだったが、こうしてまともに会話をするって言うことは初めてのことだった。
何を話していいか、コミュニケーションの取り方もよく分からないこの状況。
正直気まずさがあった。言い出しがとにかく悩ましかった。
だが、先に口を開くのはいつも花音からである。
「この間の件は許すって言ったけど、どうして私の素性を知ろうとしたの?」
「ご、ごめん。まだ怒っている? 金出そうか?」
「だからお金はいらないって言ったでしょ。単純にどうしてかなって気になっただけ。行為だけの関係で素性を知る必要あったのかなって」
「それは……その……あれだよ。そう言う関係になっている相手のことを何も知らないって言うのは寂しいと思っただけだ」
「寂しい? 性欲を満たせればそれでお互い満足じゃないの?」
「身体は満たせても心が満たせていないって言うか」
「何よ、それ。私のこと好きになっちゃった?」
と、花音は冗談を言うようにからかった。
「分からない。それはなんとも言えない」
「そう。でも、知ることによって割り切れる関係じゃ無くなることだってある。それでも私のことを知りたいと思う? その覚悟はあなたにある?」
見据えたように花音は俺に問う。
確かに聞かなかったことで幸せなことはある。
だが、俺はそれ以上に君のことを知りたい。いつしかそう思っていた。
「知りたい。俺はもっと君のことが知りたいんだ」
「後悔……しても知らないわよ?」
「その時はその時だ」
「そう。じゃ、仕方がないわね」
そう言って花音はその場から立ち上がった。
「栗見花音。第3地区南聖女学院の二年生。十七歳。五月二日生まれ。AB型。趣味はお菓子作り。特技はシャドーボクシング。改めてよろしく」
「立川怜。生凪城高校の二年。十七歳。七月十五日生まれ。A型。趣味は読書。特技はキーボードの早打ち。こちらこそよろしく」
俺と花音は初対面のように自己紹介をして握手を交わした。
身体の関係は済ませてしまっているが、俺たちはこれからお互いのことを知ることになる。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
★★★をポチッと!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます