世間を知らない異能者は上京して毒味役になりました!

@fuku1022

エピローグ1

物心ついた時にはもう家族は居なかった。

まだ幼かった私をこの世で最も大切にしてくれていたのは今にも傾きそうなこのあばら家に住みつくネズミだっただろう。

村の人々はそんな私を憐れんでいたのか、毎日ほんのわずかな食べ物と水をぼろぼろのあばら屋根の下に置いて家の前から立ち去っていく。

誰一人として私を引き取ろうとはしなかった。

そのことに気が付いたばかりの頃は哀しくて悔しくて、この人たちならと食べ物を置いていく者に泣いて縋ったが、その手を握りしめられることはなかった。

今になって考えれば、当然の結果だろう。

家には風呂もなく、二日に一度村長の家で風呂を恵んでもらうような孤児だったのだから。

何日間壁に自分の存在意義について問い続けただろう。

泣いてわめいて、壁を蹴ったり殴ったりした。しかし、元々家具の一つもなく、壁も剥がれかけた家内は大して荒れることもなかった。

そんな、ある日ふと気付いたのだ。

どんなに小さな花でも強く根を張れば、美しく咲ける日が必ずくるのだと。

その日から私はひたすら徳を積んだ。

すべては村の人々のため。

初めは驚いていた彼らも一ヶ月ほど続けると、私の頑張りを認めてくれるようになった。

純粋に嬉しかった。

自分の存在自体を肯定されたような気がして、涙が溢れた。

それはやがて、彼らの笑顔を見る自分のためにもなったのだった。

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