第8話

 「あ、この場所は……」


 しばらく歩いていると見覚えのある場所に辿り着いた。


 昨日髑髏の化け物と翼の生えた化け物に襲われた場所だった。


 だが思っていたほど荒れていない。それどころか妙に草木が生い茂っている。


 よく見るとなぎ倒せれた木々や岩が降ってきた衝撃でできた窪みに不自然に生えたような感じ。一日で育つ速度を超えている上に被害がないところにはいたって変化はないように思える。


 不思議ではあるが今更このジャングルに驚いてはいられない。そういった場所なのだろうと半ば諦めつつ納得した。


 「どうやら大きな争いがあったみたいだな」


 「昨日ここで襲われたんだ。骨が皮膚の上に浮き出たでかいのと空を飛ぶでかいのに」


 「なるほどな。それで骸骨の方が勝ったと」


 男の視線の先には翼を持った化け物の死体があった。


 右腕が失われており、赤黒い血が緑生い茂る大地を赤黒く染めていた。すっかり乾いてはいるが。


 「割と時間が経ってるな。これじゃ回収はできないか」


 「あの、早くこの場所から離れません? またあいつが来たら……」


 そんな俺の不安は最悪の形で実現した。


 「ギョアア!」


 木々をなぎ倒しながら昨日の骸骨の化け物がやってきてしまった。まるで狙っていたかのようなタイミングだ。


 「ほら来たぁ……」


 「本心からの言葉だったならそういうのは口にしない方がいい。往々にして災いを呼び込む」


 泣きたくなっている俺に対して、男は微塵も心を乱してはいなかった。


 「隠れてろ」


 男は懐から銃を取り出し、何かの液体の入ったケースを銃にセット。


 そして自身の左腕に銃口を当てて。


 バァン!!


 撃った。


 すると身体に変化が生じ、左半身を重点的にクリスタルが。頭には猫耳、臀部には尻尾が生え、先程化け物を殺した時のあの姿へと変貌していた。


 「さて、狩りの時間だ」


 男の姿が消えた。いや違う。高速で移動している。動体視力にはそれなりに自信がある方だが辛うじて追えるているレベル。


 音もなくそんなスピードで移動している。怪物が見失ってしまうのも無理ないな。


 キョロキョロと辺りを見渡す怪物の頭に乗ってゼロ距離で何度も銃を撃つ。


 でも兜のように被った頭蓋骨に守られて傷一つつかないでいる。ヘッドショットは無理そうだった。


 怪物の拳が襲い来る。ジャンプでなんなく回避。


 怪物は自分の頭をぶん殴った結果になった。それでも頭を守る頭蓋骨の兜には傷一つついていない。相当頑丈だ。


 「こりゃ頭通すのは文字通り骨だな」


 地面へと降り立った男は骨の無い皮膚が見えている部分に銃撃を集中させる。


 しかし骨の鎧がある箇所は全て急所部分。逆に言えば守りの無い箇所を攻撃しても効果は薄い。骨に阻まれて全く攻撃が通らないよりは断然ましだが、これではいつまでもあの怪物を倒せない。


 勘弁してくれよこんなところ一刻も早く抜け出したいのに。


 「やっぱり骨から砕くか」


 男は懐からさっきとは違う液体が入ったケースを取り出し銃にセットした。


 今度は右腕に銃口を向けて引き金を引く。


 バァン!!


 すると右腕が、右半身に変化が起きた。


 アルマジロのような装甲が腕や脚、肩を覆い、肩には更に厳つい角のような棘が三本生える。


 手先はドリルのような形状へ変化し、それは実際に高速回転していた。


 「なんか、さっき倒した化け物みたいだな……」


 変化した右半身の特徴が妙に似ている。どういうことだ?


 「撃ってダメなら削りだな」


 向かってくる怪物を速さで翻弄していく。


 追いついたと思えば猛スピードで離れ、また追いついたと思えば離れる。


 速さで大きく劣る怪物はいいようにあしらわれていた。


 「ギャギャアー!」


 イライラしたのか怪物は昨日と同様に近くにあった岩石を持ち上げた。岩石には乾いた血が付着して少し欠けた部分がある。多分昨日もう一体の怪物を殺す際に使ってたやつなのだろう。


 直径五メートルは超えている岩石を頭上より高い位置に軽々と掲げる。やっぱりとんでもない怪力だ。


 「よっ! ほっ!」


 男は二度発砲した。怪物の両手に一発ずつ着弾する。


 痛みで力が緩んだのか、それとも怯んで離したのかはわからんが、岩石は怪物の手を離れてそのまま落下。怪物の足に激突した。


 「キギャアア!? ギャアア!」


 悶絶する怪物。その場で地団太を踏んでパニックを起こしている。


 男はいつの間にかそんな怪物の頭に再び舞い戻っていた。


 「おらっ!」


 変化した右腕。ドリル状の手を高速回転し、頭蓋骨の兜に突き刺す。


 銃では傷のつかなかった骨がみるみる削れていき、血が噴き出した。骨の守りを貫通して肉を抉ったのか!?


 「キキャアアアア!!」


 暴れる怪物の頭から傍にある岩山に飛び移る。右腕はいつの間にか元に戻っており、銃は何かを取り付けたのかライフルのような形状へと変化していた。


 「これがラストショットだ」


 放たれた一撃。オレンジ色の光が目にも止まらぬ速さで先程削った頭蓋骨の穴へと吸い込まれていった。


 「ギキャアアアアアアア!!」


 頭部から血が噴き出し、怪物は大地に突っ伏す。苦しみ、もがきながらやがて息を引き取った。


 「さすがに大物だったな。手間取った」


 男は死体に飛び乗るとさっきみたいに腹の中に腕を突っ込んだ。


 中から勾玉を取り出すと、やはり満足気な表情を見せる。


 「……いったい何なんだよあんた」


 「……俺は――」

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