第7話
「んんっ! くはぁ……痛っ!」
けたたましい鳥の鳴き声と朝の光で目が覚めた。
岩場で寝たせいか身体のあちこちが硬くなって痛い。
辺りを見渡すとキャンプ道具はそのまま、焚火の火が消えている。
そしてあの男の姿がない。そういえばまだ名前も聞いてなかった。
「あれどこ行ったんだ?」
一人だと気づくと一気に不安が押し寄せてきた。
右も左も分からず、いつ怪物に襲われるか分からない。昨日は色々あって途中から考えないようにしていたがはっきり言って絶体絶命の状況だった。
「あの人どこに!? でも探し回るのはかえって危険か」
少なくともここは他の場所よりは安全なはず。きっとそう。だってわざわざここをキャンプ地としていたんだからそうなんだろ? そうだと言ってくれ!
大丈夫。大丈夫だ! 一晩眠っていたけど襲われなかったし。ここは安全地帯なんだ。
自分にそう言い聞かせる。言い聞かせながらも不安だったのでこの場を離れずにあの人を探した。
岩山の歩いて行けそうな範囲にはいない。下を除くと……何かの足跡が大量に確認できた。
しかも一種類じゃない。複数種。ここからはっきりと判別できるってことはサイズもそれなりにあるということ。
血の気がサーッと引いていくのがわかる。やはりここは危険だ。
「早く帰って来い。どこ行ったんだあの人」
生きた心地がしない。早く! 一刻も早く戻ってきてくれ!
そう願っていたのに、来たのは全然違うモノだった。
ドシュッ!
「うわっ!?」
土を巻き上げて現れたそいつは見るからに化物とわかる風貌だった。
基本的な特徴はモグラの様だった。表皮は茶色く、目は小さい。
背中や腕、脚部にはアルマジロのような硬そうな鱗が鎧のようにびっしりと生えていて、側頭部に二本、鼻の辺りに一本、それぞれゴツイ角が。そんな生き物が人間くらいのサイズで二足歩行している。
地底人? 妙に動物的だがフォルム的には人間が一番近い。地中から出てきたみたいだしそこに住んでいたのか? だがそんなことはどうでもいい!
問題なのはそんな奴がこっちに迫ってくるこの状況だ。完全に俺狙いだ!
「ヤバいヤバいヤバいって! あの人はどこ行ったんだ!?」
いや、例えあの人がいてもこの怪物をどうこうできるはずがない。
逃げるにしてもどこへ逃げればいいのか……そもそも腰が抜けて立つこともできない。
あっ、死んだ。今度こそ本当に。
怪物との距離はもう一メートルもない。身を乗り出し、手を伸ばせばいつでも俺に触れられる。
九死に一生を得ても、一日も持たなかったな……さらば、現世。
ズキャン!
死を悟ったそのとき、オレンジ色の光が怪物の左側頭部にある角の付け根部分に命中した。煙と火花が散る。
この光、昨日も……!
飛んできた方を見ると――
「大丈夫か? 昨日と合わせて二回目だな」
そこには銃を構えたあの人がいた。
「へ?」
あの人だよね? 顔や声はたしかにあの人だけど……全体的な姿はそれまでと違っていた。というか、普通の人間じゃなかった。
頭には猫耳、臀部からは猫のしっぽが生えている。それも異質で、生物間は薄く、鉄っぽいというか鉱物っぽいというか。でも完全にメカメカしいわけでもない不思議な風貌。
さらに左半身を重点的にクリスタルのようなものを所々に纏っている。それらは白や灰色に近い、なんだか色が抜けたような色に光っていた。
自分でも言っていてよくわからん。何だよ色の抜けた色って。色なのか色じゃないのか。
「下がってろ」
男はそう言うと人間とは思えないジャンプ力で怪物の背後に飛び移った。
「グオワッ!」
さっきのお返しをばかりに反撃にでる怪物だったが、男はひょいひょいっと最小限の動きで躱す。
大振りの攻撃を避けるとさっきとは反対の右側頭部の付け根に銃口を付けてゼロ距離で撃つ。火花が散って怪物は苦悶の叫びを上げダウン。
しばらくはビクビクと痙攣していたが、やがて完全に動かなくなってしまった。
「何だったんだこいつは……それにあんたも! 何だよその姿!?」
「その内お前も知ることになるかもな」
返ってきたのは答えになっていない言葉。
男は動かなくなった化け物の腹に手を突っ込んだ。
ベチャッ! という音と共にグチャグチャに腐敗し半固形状態の腹の中をかき乱す。
「思わぬ収穫だ」
死体の中から勾玉のようなものを取り出して満足気な表情を浮かべている。
「さ、お前を家に帰してやる。ついて来い」
「へ?」
「何だまだキャンプを楽しんでいたいのか?」
「いやいやいや! 早く帰りたいです」
いつの間にか消えていた猫耳と尻尾とかさっきの勾玉とか、他にも色々と気になることはあるけど、もうどうでもいい。一刻も早くこのジャングルを抜けて元の生活に戻りたい。
残った謎より命と平穏だ。ゆっくりと前を歩く男に、もっと急いでと思いながらついていった。
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