第6話
しばらく移動すると岩山の洞窟付近にまで来た。
辺りはすっかり暗くなっていて、星の灯りを頼りに彼についていくのがやっとだ。
「ただいま~」
男がまるで実家に帰ってきたかのように言った。誰もいない為返事は返ってこなかったが、そこにはいくつかの物資とオレンジ色に燃えている焚火があり、ジャングルの中なのにもかかわらず生活感があった。
依然危険ではあるだろうが、俺以外の人に出会えたことと、ひとまずの拠点に辿り着き、安心と疲労がドッと湧いて出てきた。その場にへたり込む。
「はぁ~」
「おいおい、温泉に浸かってるわけじゃないんだから」
思わず漏れた声にツッコミを入れられたが、力が抜けていくこの感覚は、それと同等かそれ以上と言ってもいい。
ヘトヘトだ。身体が動かない。心なしか熱っぽいかも。身体も重くて若干苦しい。でもそんな疲れや苦しみもなんだか心地いい……
ピピピッ……
ぐったりとしていた俺に機械が
「ALE値36か……やっぱ随分と低いな」
言っている意味はさっぱりだった。彼は地べたに置いてあったバッグの中を漁り、取り出した何かを俺に放り投げた。
「ほれ」
咄嗟にキャッチしたそれは果実のようだが色が青みがかった緑色で少しだけ透けていた。
寒天やゼリーのようにも見える。少なくとも俺の知っている果物ではない。ということはこのジャングルの……
「心配すんな。それ、食べて大丈夫なやつ。むしろ食べないと死ぬ」
食べても大丈夫と聞き、俺は噛り付いた。
みっともなくがっついて口いっぱいに頬張った。
「ほれ、ほれ」
二個、三個と目の前に転がされるそれを、俺はありがたくいただいた。
「ほら」
水の入ったペットボトルが目の前に置かれる。俺はありがたく頂戴し、ゴクゴクと飲みだした。
「あ、それ飲んで大丈夫じゃない水だった」
「ブーッ!」
「アハハハハハ! 嘘だよ。ちゃんと飲めるやつ。ハハハ!」
からかわれた。すっごく意地悪そうな表情でニヤニヤと笑っている。心の底から楽しそうに。
「で、お前誰だよ。ここで何してんだ? キャンプか?」
「そんなわけないじゃないですか。こんな所で……」
ここにキャンプ感覚で来れる人間がいるのなら会ってみたいくらいだ。
「俺はミコシバ ケンタロウって言います。ここには……奈落に突き落とされて……」
「ここに来る物好きは珍しい。ほとんどは奈落に落ちた哀れな奴だ」
まるで自分はそうではないかのように笑っていた。
「そういうあなたはどうなんですか」
「俺? 俺はここにキャンプしに来た」
「……は?」
「落っこちたり迷子の奴がこんな準備万端でここにいるか?」
たしかにそうだが……溝に落ちたら衣服以外の物は消えてしまっている。そんな人がこういう風にキャンプ用品等を用意できるはずがない。
でも、だったら何でこの人はここにいる?
おかしいだろ。ここは島の中心部。軍隊すら門前払いを食らう未開の地獄。そんな所にキャンプだなんて、考えられん。
もしかして元々ここに住んでいる未確認の部族とか? いやに文明的な道具と服装だがまだそっちの方が……ダメだ。なんだか頭が回らない……
「寝る前にこいつを飲んどけよ」
そういって男は何やら錠剤を手渡してきた。
ビタミン剤? 何かの薬か?
「これは?」
「《くぜりね島》。紫色の島って言った方がわかりやすいか? そこの薬だ。
熱っぽくて身体が重い。おまけに思考が纏まらないだろ? それで随分楽になるはずだ」
見透かされている。多分疲労とストレスで体調を崩しただけだと思うけど、ここはジャングル。何があるか分からない。ありがたく頂戴しておこう。
「んっ。ぷはぁ! ありがとうございま……す……」
腹が満たされ、薬も飲んだせいか眠気が……
「悪いが寝床は一つしかない。その辺で勝手に寝て……もう寝てるか」
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