第4話
てことがあって次の日の昼前。
俺たちは交流セールのある島の端も端。出店の並ぶエリアへと足を運んでいた。
出店と言ってもテナントのようなしっかりとした建物もある。野暮ったい祭りとは雰囲気がまるで違う。
少し遠くを見渡すと紫の島が目に映る。橋がいくつか架けられており、人々が往来している姿が見て取れる。中々壮観だ。
やっぱりこっちからあっちに向かう人は少ないな。こっちに来る人は多いから余計にごった返して窮屈だ。
「すげぇ数……」
「行くよ。まずはあそこ」
指の指された場所に視線を移すとテナントに人だかりができていた。看板には聞いたことのある化粧品メーカー。客は当然女性一色。
「あそこ行くのか……」
ウヅキが買い物中、俺は人混みに酔いそうになりながらも痴漢と間違われない様腕を上げて店内の隅に。それを何件も繰り返してあっという間に昼過ぎになった。
出店の食べ物をいくつかつまむ。さすがにレストランには入れん。学生だからな。そんな金はない。
一息つく頃には、結構な荷物を抱えていた。
「次はあそこ。その次は――」
「まだ買うのかよ!」
「お母さんの分もあるから」
金を渡されてたか。どおりで化粧品をいくつも買うお金があるわけだ。
そしてさらに数時間。ようやく買い物も落ち着いてきた。
相変わらず人は減らない。まだまだ人のうねりは留まることはない。
「少し休憩しよう。俺トイレ行ってくる」
「もう、早くして」
トイレに行く前に、少しより道。
さっきあいつが物欲しそうに眺めていた化粧水を購入しに向かった。
「バースディカードもお願いします。内容は――」
腐れ縁と言っても縁は縁。出費は痛いが、祝うのにケチなことは言ってられん!
こっそりとなんとか目的の物を入手することができた。
さて、戻る前に……
「本当にトイレに行っておこ」
ここは交流セールの端も端だ。店から逸れれば人気も少なくなる。
丁度人気のないトイレがある。そこで用を足してふと島の外を眺めた。
もうすぐそこに紫の島が見える。橋を渡れば、こことは違う別の島に行けるんだ。
俺は将来ここを出ていくのかな……。
ここにいても何もやることはない。珍しい動物を狩ったり農作物を育てたり。島の代表的な職業はそういったものだ。
そういったものになりたいかと言われれば当然ノーだ。けど警察官なんかのどの島にもある職業にもあまり魅力は感じない。
もちろん職業自体は必要なことだしバカにしてるわけではないが、自分がやろうとはならない。
となると他の島で盛んな職業か? あるいはトレジャーハンター……。無いな。無い。
高校生にもなるとそういったことを嫌でも考えてしまう。俺はいったい、何がしたいんだ? 何ができるんだろう……。
「……帰るか」
こんな時に悩むことじゃないよな。ウヅキも待っている。
時間はまだあるんだ。ゆっくり考えて答えを出せばいいさ。
ガラにもなく黄昏ていた意識を日常に戻すと――
ドガッ!!
振りむこうとした瞬間、背中に衝撃が走った。
誰かに押された!? しかもかなりの力で。
身体が手すりに強くぶつかった。島の周囲を覆う落下防止用の手すり。だが俺の身長なら身を乗り出せば落下してしまうほどの高さしかない。
バランスを崩し、上半身が乗り出した状況で更に誰かに足を持ち上げられた。
確実に誰かが俺を突き落としにかかっている。そう気づいた時にはもう遅かった。
俺の身体は、完全に島の外へと出てしまっていた。重力に従って真っ暗な深い溝へ、奈落へと落ちていく。
落下中最後に見たものは、昨日のストーカーが親指を下にしながら俺を嘲笑う姿だった。
「う、うぅ……」
目が覚めると、視界に入ってきたのはオレンジ色の空と深い緑の植物。
けたたましい動物の鳴き声。鳥だろうか?
じめじめしていて身体が若干重く感じる。そして暑い。蒸し暑い。
ようやく頭が動き出した。身体を起こして辺りを見渡す。
「ここって……」
何があったか思い出せ俺! たしかウヅキと買い物に来ていて、それで……
「っ! そうだ! あのストーカー!」
思い出した! 俺はあのウヅキに付きまとうストーカーに突き落とされたんだ。
突き飛ばされただけでなく足まで浮かせて、確実に殺意があった。
……てことはここは……
奈落に落ちた者は、それまでにいた島の中央に来ていた衣服のみの姿で放り出される。
その言葉が正しいのなら、ここはカカ島の中心部。未知の化け物が救うジャングルの中だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます