第1話

――


 この世界には六つの島がある。


 島々はそれぞれの環境下の元で独自の生態系を形成し、文化を発展させてきた。


 島は常に動き続け、五十日という一定の周期で二つの島が急接近し、他の島との交流が可能となる。


 隣同士になった島は一週間ほど並行し、軌道が逸れるとまた五十日という歳月を経てまた違う島へと接近する。


 島の外には底の見えない大きな奈落があり、奈落に落ちて気がつくと、どういう原理なのか身に着けていた衣服だけを残して元いた島の中心部で目を覚ます。


 各島は中心部に近ければ近いほど過酷な環境と未知の生態系がそこにある。とても人間が生きてはいけない場所だ。


――



 「はい、ミコシバ君よくできました。

 今彼に読んでもらったのが、私たちの住む世界の常識となっています。

 もっとも、そんな常識をきちんと把握できていない者もいるようですが……」


 先生はギロリと何人かの生徒を睨む。睨まれた生徒たちは目を逸らしたり、とぼけた表情を作ったり、そもそも寝ていて話を聞いていなかったり。 


 俺はそんな奴らを呆れ混じりに見ながら着席する。


 ミコシバ ケンタロウ。それが俺の名だ。


 俺の住んでいる《カカ島》、通称緑色の島と呼ばれているこの島は、その二つ名の通り自然の豊かさが特徴の島だ。


 島の外周には僕たち人間の生活する町や村がいくつかあり、少し内側へ行くとだだっ広い草原がずっと続いている。


 さらに奥、島の中心部へ行くにつれて、森、山、ジャングルと自然の力が色濃い場所になっている。


 これは他の島も同様で、島の外周は生活区域。島の中心部へ近づくにつれてその島の特徴が強くなっていく。


 青色の島なら生活区域付近は比較的(それでも雪が積もっていないことが珍しい程度には寒いが)暖かく、薄く氷の張った湖がまばらにあるくらいだ。だが、中心部付近は常に吹雪が吹き荒れ、地面が凍る極寒の地となっているらしい。


 そしてどの島も中深部へ近づくほどに強大で凶暴な化け物が住んでいる。


 ここ、カカ島なら町や村付近の草原にはさして脅威にならない、精々農作物を荒らしたり売り物をかっさらう小動物がいるくらいだが、森の近くまで行けば同じ草原でも人間を喰う猛獣もいるし、森の中や山には軍隊が出向いても被害が出てしまうほどの生物が存在する。


 中心部にあるジャングルに至っては戦車を踏み潰し、爆弾でも傷がつかない化け物がウヨウヨいるらしい。


 中心部は足を踏み入れて生きて帰ってくることができた人物が数えられるほどしかおらず、生態系の全貌が明らかになっていない未知のエリア。


 他の島も同様、中心部は調査が進んでおらず、生きて帰ってこれたものは島の英雄として一躍有名人になれる。実際に黄色の島で中心部から帰還した人物は、その経験とそこから持ち帰ったお宝で六つの島々の中でも三本の指に入るほどの大企業を一代にして立ち上げた。


 そう、未開拓である島の深部に行けば行くほど未知の道具や財宝、怪物の体組織など非常に珍しく高価なものが存在している。それらの採取を生業として生きる《トレジャーハンター》が長年メジャーな職業であるほどに。


 そんなトレジャーハンターに将来なろうとは俺は思えないが……命がいくつあっても足りないだろうし。


 「……早く授業終わんないかなぁ」


 窓の外を眺めながら誰にも気づかれないような小さな声でそう呟いた。

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