第1部 §2 第2話
「
ゾフィはそれが可笑しそうに、懸命に堪えがら、意味ありげに言う。それから、ローブのポケットから、真っ黒なケースを取りだし、その蓋を開く。
そこには、十枚ほど、銀色の羽根が収められていた。
「一見ケチケチ使っているようでも、質より量ということじゃ。我は、ぱぱ!っと済ませてしまうからのぅ。おかげで漸くストックがここまでたまってのう」
ゾフィはそれがさも自慢げに、レーラに見せびらかす。
それに対して、レーラは無言で同じように白いケースを取り出し、中身をゾフィに見せる。そして、羽根はゾフィより一枚多い。
レーラがため息をつくと同時に、沈黙の時間が少しだけ流れる。
「何故汝(うぬ)の方が一枚多いのじゃ!」
「小さな積み重ねの差です」
「ほう!言うたわ!死にかけた上で一枚の差とは、様ぁないのう!」
お互い負けず嫌いである事だけは確かだが、ゾフィの言い分にも確かに一理はある。ただ、一枚の差は、矢張り一枚なのだ。
「二人ともまた、喧嘩してる!」
その時、二人にとっては、本当に聞き覚えのある声がしたのだ。その人物とはレインである。
彼女の出で立ちは、レーラのようにギリシャ神話を思わせる衣でもなく、ゾフィのようにゴージャスな魔導師のローブでもなく、事もあろうかミリタリールックである。
黒いブーツにミリタリーパンツ、ウエストに巻かれた上着に、白いタンクトップ。小ぶりではあるが、スポーツブラで整えられたバストライン。
美しくもあどけなくもある、童顔で瞳も目元もはっきりと大きい、少し癖毛がちで茶髪の活発そうな美少女が腰元に手をやり、少し頬を膨らませて、其処に立っている。
アジア系の彼女は、レーラやゾフィのように鼻筋が高いわけではないため、それがより表情を幼くさせてみせるが、そんな彼女とて、優に百歳は超えている。
「レイン様」「レイン殿」
レーラとゾフィは、ほぼ同時に驚きながら、彼女の存在を認識する。
この二人を驚かせるということが、どれだけ恐ろしいことなのかということは、彼女達の関係を知るものでしか分からない話だが、そもそもエルフの五感に引っかからないということが凄まじいのだ。
特に二人は、レインの足音や気配などをよく知っている。それだけに彼女が近くに来れば、本来解りそうなものなのだ。
譬えそれが、爆風吹き荒れる戦場であったとしてもである。
一見して怒っていた彼女だが、次の瞬間二人の手を引き、引き寄せると同時に、二人をギュッと抱きしめる。
「使いすぎでもダメだけど、出し惜しみもダメだよ」
心配が溢れる穏やかなレインの声だった。彼女が自分達を責めたいわけではないということくらい、二人はとうの昔に知っている。だが、改めてそう言われると、彼女はどこまでも、自分以上に、自分達の事を気に掛けているのだということを理解せずにはいられない。
「でもさ。それだけストックが貯まっちゃうってことは、天使化が進んじゃってるね」
レインとしては、それが心配でならなかったようだ。なければない方が良い。そんな力なのだと彼女は思っている。嬉々として受け入れるには、あまりに強すぎる力なのだ。
「何をおっしゃいます。共に歩むと決めた仲ではありませんか」
「何をおっしゃる。共に行かんと
二人は、ほぼ同時にそう言い。恐れることなく、自分達より頭一つ低いレインの肩を抱く。
「ともあれ、ここは私に……いや、我々にお任せ下さい」
レーラは、そう言ってチラリとゾフィを見ると、言い直したことに対して、ゾフィはうんうんと頷いている。
「して、レイン殿がこうしてお目見えすると言うことは、何が?」
ゾフィは、改めてそれを訊ねる。
そうすると、レインもコクリと頷く。彼女がここへ訪れたのは、勿論この場所の通信環境が途絶しているからなのだが、それだけなら二人に任せておけばよいのである。
「これ……」
レインは、自分の携帯電話を取りだし、テーブルの上に立てる。彼女の携帯もスマートフォンタイプであり、矢張りこの方が、色々と重宝することが多いのだ。
其処には、乾いた血で描かれたような「T」というロゴをバックに、覆面をした人間が、演説台に両手をつきながら、カメラ目線を配っていた。
「我々はトゥルーブラッド!人類至上主義者である!あらゆる手段を用い、この世の汚れた血を総て根絶することをここに誓う!」
彼が非常に強い口調の演説を行うと同時に、カメラがパンされ、捕らえられたホビットの青年の首を撥ねる映像が流される。
理由は単純だ。エルフやダークエルフは非常にその気配に敏感であり、彼等に捕まる事がまず無いからである。ドワーフとオークは力が強く、束縛が難しい。基本的に戦闘となり、可成り大事となるのだ。
それに比べホビットは、非常に温厚で人懐こく、戦闘力は決して高いとは言えない。要するに一番捕まえやすい弱者なのである。
恐らく交易中に拿捕されたに違いない。
何という惨い映像だろう。酷く恐怖し、硬直した表情のまま、首が転げ落ちる瞬間まで、鮮明に映し出されていた。
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