第1部 §3 第4話
そして、最期とは文字通り最期であり、用が済めば其れまでの事である。特に拷問を用いて、彼を撲殺した訳ではなく、魔法で強制的に彼の情報を引き出したまでだ。
「お主も酷よのう」
ゾフィは、あるがままの人間である。普段様々なモノに執着を見せているようだが、思いの外執着がない。
いや、そうではないのだが、そうではないのだ。
どうとなる事に関しては、無関心とでもいおうか。譬えこの盗賊が何らかの理由で、復讐にこようとも、自分達の身に何ら危険があるわけではない。
「生かしてどうするんですか?」
「まぁ……そうだのぅ」
執着がないからこそ、レーラのそれにも反対する必要もない。理解しうる事と言えば、彼女が自らの保身のためにそうしたわけではないということだ。
確かにその場に自分もいたし、自分の身も危険に晒されたわけだが、彼女の結論はそこにない。如何に対象が自分が大事に思っている人間に、危害を加えようとしたか否かなのである。
レーラは、今後の放心もあり、携帯電話を取る。だが通話が出来ない。完全にジャミングされている。
「ダメですね」
「むぅ。まぁ帰れば良いだけのことなのだがのぅ。しかし、どうやって、こんな広範囲に?」
残念ながら、魔法の気配でもないかぎり、彼女達にそれを理解する術はない。強いて言うなら、オーバーテクノロジーの成せる技なのだ。
しかし、それだけの技術を盗賊風情がどのようにして手に入れたのかが疑問である。
「矢張り、いつものように手早く討伐してしまうに限るかのぅ」
考えても解らないものは解らないのだ。盗賊風情には、精々剣や弓という、原始的な武器が似合っていると思う。この時代、持ち合わせても、数丁の銃やショットガン程度だ。しかも、弾薬の量はそれほど潤沢でもない。
大半は対アカデミー用に所持しているという感じである。いくらエルフ達が優秀だと言っても、彼女達のように神がかった反射神経で、防御に対応出来る訳ではないのだ。
「本体に逃げられてしまう可能性もありまよ?」
「致し方在るまい?何時までもこの集落の交易を停止させたままにはゆくまいて」
「確かに……」
「それで怒るストーム殿でもあるまい?」
ゾフィはチラリとレーラを見る。確かに生真面目なレーラが頭を下げてしまえば、寧ろ彼の方が平謝りしてしまいそうになるのだ。ゾフィは色っぽく甘えればそれで片が付く。
後で、彼がフィルに抓られるだけのことなのだ。
「解りました。では、参りましょうか!」
「ウム」
二人が決断をした直後だった。凄まじい轟音と共に、集落の空気が揺れる。それが何発も続くのだ。
「何事ぞ!?」
ゾフィは五月蠅さに耐えかねて、両耳を塞ぎ、しゃがみ込む。
レーラは立ってこそいるが、可成り辛そうだ。勿論エルザもヴェルヘルミナも、耳を塞いで蹌踉めいている。
彼女達の五感の鋭さが徒となっているのは、言うまでもない。
「砲撃だ!結界が破れたぞ!」
男が一人、彼女達の集まっている部屋に慌てた様子で飛び込んでくる。
ヴェルヘルミナは結界を広範囲に展開させている。よって、全体の強さや、修復能力は非常に弱いものとなってしまっているのだ。それでも単純な重火器では、早々穴など空くはずもない。だとしたら、最低でもダイナマイト級の爆薬が必要になる。それも、一つや二つでは足らない。
「やれやれ……、どうなっておる」
ゾフィはゆったりと歩き出す。そんな場合ではないのだが、自分の生命そのものが危険にさらされているわけではない。
一方レーラは、素早く行動を起こし、弓を片手に、表に飛び出す。
「私の結界が!」
ヴェルヘルミナも急ぐ。彼女の場合は自負の問題だ。
二人がいるのは、集落の中心地で爆発の起こった東の砦までは、30秒もかからない。彼女達は、人間が百メートルを全力で走るよりも速い速度で、その距離を走る事が出来る。勿論ゾフィも例外ではない。ヴェルヘルミナはシャーマンであるが、それでも身体能力は人間より上で、彼女らが身体的に劣っているのは、飽くまでデミヒューマンレベルでの話なのである。
到着時に、ヴェルヘルミナは多少息を乱していたが、レーラは何食わぬ顔をしている。それが二人の根本的な体力の差だと言えた。
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