第1部 §3 第3話
そんな彼女達が、足を止めた瞬間だった。
樹木の上から構えられた、ショットガンやら拳銃やらで、一斉攻撃を受ける。
しかし、今度はゾフィが両腕を広げて、周囲に結界を張る。非常に反射率の高いその防御魔法は、あらゆるものを弾き返す。弾けた弾丸が、周囲を激しく傷つけるが、それそのものは彼女の責任ではないし、レーラもそれを咎めはしない。
跳弾の危険性から、彼等が至近距離に詰め寄ってくることも無い。
それに、長時間の猛攻に耐える必要性も加味している。
吸収系の防御魔法は、物質のエネルギーを吸収するまで、エネルギーを放出し続けるため、非常に魔力の消費が激しいのだ。
二人は、メリットデメリットを選択し、使い分けているに過ぎない。
ゾフィが、防御魔法を張っている間に、レーラは弓を構えて、次々に樹上の盗賊を射抜き、落として行く。
彼女の弓が防御魔法を貫けるのは、彼女の高等技術があるからであり、それは集落を出る時に使った結界の部分解除と再構築の応用である。
「一人くらいは生かしておけよ」
「解っています」
エルフは、ダークエルフと違い、戦闘による無駄な死人を出すことを好まないが、全体的な利益のための排除理念は、ダークエルフよりも強い。この場合、盗賊の絶対的殲滅は、それに相当する。規律に対して冷徹なのは、エルフと言えた。
十分ほどが過ぎ、派手に飛び交っていた銃声も収まり、再び森には、静寂が訪れるのだった。
「やれやれ、防御魔法はあまり得意ではないのじゃ、疲れさせるでないわ」
ゾフィはは少々肩が凝ったようで、幾度か首を左右に傾けながら、首の筋肉を解す。
「貴女は、ローブに装飾を施しすぎなのです。杖も重量がありすぎです」
「細かいのう。お主こそ、化粧の一つくらい覚えよ。だからいつまで経ってもストーム殿の
「ス、ストームさんは関係ありません!それに側妻などと下品な!」
妙に動揺するレーラだった。
ストームはフィルと結婚しているし、一生レインについて行くと決めているレーラにとって、その話題は所謂秘めたる想いなのだ。そもそも人間で百も年下の彼が、そう言う対象になるとは、彼女心も想いも寄らなかった。
兎に角ストームは純情なのだ。その純情さは、妻であるフィルに対してだけでなく、仲間に対しても言えることで、そう言う彼の一面は非常に穏やかで心地よい。フェアを好み、献身的なのである。
「まぁよいわ」
ゾフィは、何気なく歩き出すと思うと、レーラの弓に胸板を打ち抜かれ、俯せに倒れ込んでいる盗賊の一人に近づいた。
「のう。主等少し、火遊びがすぎやせぬか?」
「うぐ!」
彼は痛みで会話もままならないようだ。
「話が違う……じゃ……ねぇか。こんな強えぇなんて、聞いてねぇよ!」
確かに、彼の言うとおり自分達が現れたのが運の尽きだとは思う。自分達が他に奔走していたのなら、彼等の略奪は思いのままだったのだろう。
それに、村にはエルザとヴェルヘルミナもいる。
捕まえた盗賊一人を、集落に連れ帰り、自白をさせたところ、武器の出回りどころは、今一はっきりしないらしい。勿論トップの人間は知っているだろうが、先兵部隊は、矢張り主だったことを理解していない。
強い武器を手に入れ、集落を襲撃し、略奪することだけを考えており、当に組織の末端なのである。
これまでも、何らかの形で、これらの武器の横流しはあった。密造という事も考えられるが、基本的な絶対量と精密性の問題で、一団が武装できるケースは希である。鋳造にしろ削り出しにしろ技術はいるし、問題は弾薬である。
ただ、一つだけ判明したことは、アカデミーの手練れが必ず現れるという伝達が行き渡っていたことだった。
本体の居場所はどこなのか?という事も訊ねたが、彼等は、移動式の武器庫を用意しているようで、正確な位置は解らないらしい。
どうやらトレーラークラスのものが、保管庫として使われている可能性がある。
特にそれが末恐ろしいとはゾフィも思わなかったが、彼が最期に漏らした言葉が気になる。
「我々には奥の手がある」
確信めいたその一言が、二人には、妙にはっきりと印象づけられていた。
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