第1部 §3 最終話
砦では、デミヒューマンの混合兵団と盗賊達が、応戦し合っている。結界は破られたが、どうやら彼等が集落の門を破られるのを阻止しているようだ。
盗賊達が無闇に爆薬で吹き飛ばさないのは、そもそもの絶対量が少ないからであり、単発では、集中して張り巡らされた、部分的な結界に対しては、あまり効果がないからだ。
それこそ、雨霰のように弾丸を撃ち続けなければならない。
ヴェルヘルミナの張った結界は、集落に十分な準備を与えており、防衛力も手堅い。
「ヴェルヘルミナ。穴の空いた部分に結界を張り直して下さい」
「解りました。サポートお願い致します!」
二人は会話を交わすと。レーラは腰元の短剣を抜き、一っ飛びで五メートルはある外壁を一っ飛びで乗り越え、門前に出ると、敵味方入り乱れる魔法や重火器の嵐をくぐり抜け、結界付近に張り付いていた盗賊共を次から次へと切り倒して行く。
レーラが飛び込んだことで、重火器を使用している者達は同士討ちを恐れ、その手を止めてしまった。
レーラは防御魔法を駆使しつつ、至近距離での攻撃を止めない。
外門を守る兵士達は彼女に続くことはない。それは、エルザが予め指揮した結果だ。勢いに任せて飛び出ると、より多くの犠牲者が出てしまう。
「ウィンドネイル!」
レーラは、あまり詠唱を必要としない魔法を一つ唱える。
効果範囲は半径二メートルほどに限られるが、それでも範囲魔法であり、人間程度であれば十分な殺傷効果を得られる。そして、怯んだ隙に、更に数名斬り殺す。
ミスリル銀で作り上げられたナイフは、魔力との相性が良く、魔法を付与することで、衰えを知らない切れ味を保持しているため、彼女の猛攻も衰える事はない。
「本当に人間とは、欲深く罪深き生き物ですね!」
レーラの怒りは静かだが、その裁きは冷徹である。彼女は一人たりとも、生かして於くつもりはない。
敵を倒す度に、美しいブロンドも、きめ細やかで色白い肌も、純白の衣も、みるみる返り血で染まって行く。
そんな彼女の鬼神ぶりに喚起したのは、同族のエルフではなく、寧ろ交戦意欲高い、ダークエルフ達だった。静観を好むエルフに於いて、レーラの存在は異色といえる。彼等にとってこれ以上面白いショーはない。
つい、我も我もと、身を乗り出したくなるのだ。
「お待ちなさい!もうじき穴が塞がります!」
穴がふさがってしまえば、外から内へ入る手段はない。どれくらい残っているか解らない重火器を持った盗賊相手に飛び出すことは、自殺行為と言えた。
ヴェルヘルミナの一言に、身を乗り出していた彼等も、冷静さを取り戻す。
その直後の事だった。
ゴ!という、大気を一気に駆け抜ける赤色の光線とが、彼女達の後方から、街スレスレの頭上を駆け抜ける。
恐らく直径は、二メートルほどだっただろう。怪光線と言わざるを得ないそれに、レーラもヴェルヘルミナも、表情が強ばり、振り返らざるを得なくなる。
何が起こったのか?誰もがパニックに陥りそうになる。
「バカ!レーラ!前を見ぬか!」
後方で現場指揮を執っていたエルザが櫓から身を乗り出し、気を取られた彼女の少し前方を指さす。
エルザの言葉に我に戻ったレーラが彼女の指さす方向を見ると、マシンガンを構えた男がレーラに標的を合わせている。
レーラは急いで、防御魔法を張り、それを防ぎに掛かる。
当然のように、防御魔法で弾丸は弾かれる。そのはずだった。確かに、弾丸は弾かれているが、それと同時に彼女の張ったシールドが、ボロボロと砕け始める。
「レーラ中へ!!」
結界を張り終えたヴェルヘルミナが叫ぶ。
異常だった。いくら至近距離だといっても、これほど脆く防御魔法が砕ける訳が無いと、彼女自身も動揺を隠せない。
レーラは、崩れかけた防御魔法を盾に数発の弾丸を短剣で弾きながら、ヴェルヘルミナの張った結界の内側へと逃れる。
しかし、その間に二発ほど、胸と腹に弾丸を受ける事になる。
「レーラ!」
エルザが櫓から飛び降り、レーラの前に出ると、ヴェルヘルミナの張った結界を突き抜ける弾丸の嵐を、二本の剣で捌きながら、これを凌ぐ。
ヴェルヘルミナの結界は、確かに弾丸に破られはしているが、彼女が直ぐにそれを再構築しているため、直ぐに閉じられ、盗賊の侵入までは許さなかった。
「早く二人を助けないか!」
ヴェルヘルミナの一言で、オーク達が急いで門を開け、レーラを担ぎ、門の内側へと戻る。エルザが弾き返しきれなかった弾丸だが、結界で威力が弱まっているため、頑強なオーク達の筋肉に阻まれ、彼等は致命傷とはならなかった。
「レーラ!」
門の内側にまで担ぎ込まれたレーラは呼吸を苦しそうにしている。
「大丈夫です」
レーラは、口から血を吹き出しながらも、エルザに視線を送ると、彼女はそれを理解したよにレーラを抱えて走り出す。
まるで、それは救護のためと言うより、大衆から身を遠ざけるかのようだった。
ヴェルヘルミナは、結界を維持し続ける。
「ゾフィが……」
レーラは力なく項垂れながら、彼女のみを案じる。
恐らくゾフィの性格だ。いい加減そうで無頓着そうでも、彼女の勘は鋭い。生真面目なエルフとは違い、裏というものに対して、非常に勘が働くのだ。
恐らく逆方向から、何かが仕掛けられるということを理解していたのだろう。だがそれにしても、実弾以上の物が用いられるとは思いも寄らなかった。それは明らかに自分達の誤算といえた。
「解った。喋るな!周到な奴だ!リレイズを掛けていたいたとはな……」
「伝令を……お願い……します」
「承知した。後は一人でどうにかなるな?」
「……」
レーラは、声にこそ出さなかったが。こくりと頷く。
一方砲撃のあった西門側には、ゾフィが立っていた。警備も手薄で当に狙い目だった。
砲撃は彼女の頭上数メートルの部分を通過し、結界に大穴を空けている。つまり、それほどの威力だったのだ。
「馬鹿め……主は生真面目すぎるのじゃ……それでは、何も守れないではないか」
冷めた表情で、目の前の盗賊達を冷めた金色の瞳で、見下すゾフィがそこにいる。
「主等、地獄にすらゆけると思うなよ」
そして、彼等をぐっと睨みを利かせたゾフィの背中から、右側だけの黒色の翼が広げられるのだった。
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