第1部 §3

第1部 §3 第1話

 ゾフィは、この事態に憤る。握った拳をテーブルにぶつけ、一同を睨みつける。


 「何としても、ナルトGTの壊滅だけは、阻止せねばならん!」


 ただし左手には、丁度程よい温もりを残した焼き芋を手にしている。


 「いや、ナルトGTは……」


 「煩い!黙れ!」


 其処は、エルザ達の宿泊している、そこそこ良い宿だ。


 そこそこ……というのは、集落にはそもそも、それほど良い宿はない。特に観光目的ではないこの集落には、尚更のことだった。


 ちなみに呵られたのは、ナルトGTの壊滅的危機を呟いた先ほどの農夫である。


 集まっているメンバーは、ゾフィを筆頭に、ため息がちなレーラ。エルザに、ヴェ

ルヘルミナである。


 「一つの貴重な種が、この世から消えようとしているのだぞ!?我らがアカデミーが、そのような事態に手を拱いているなど、あり得ぬわ!」


 更にゾフィは、立ち上がり拳を振り回し、政治家の演説のように力説するのであった。


 

 「ところで、ヴェルヘルミナさん。これほどの結界を展開するのですから、敵は多数ですか?」


 「いえ。具体的な数は解りかねますが、レーラ殿もお分かりでしょうが、集落の周囲に騒めく嫌な気配が纏わり付いています。可成りの執着を感じます。初期に放たれた火薬の量はさほどでは無いのですが、気配的な余裕から察するに、恐らく可成りの温存率を感じます」


 ゾフィが興奮している間に話を進める、二人であった。


 「私が、外へ出て、一度周囲を伺いましょうか?」


 エルザはダークエルフの狂戦士バーサーカーである。その戦闘能力は、人間の比では無く、当然エルフの剣士よりも格段に強い。多少だが魔法も使える。


 彼女が外周を一回りするということは、一騎当千の活躍が望めるはずだが、レーラは首を振った。状況が本当なら、敵襲が矢張り大がかりすぎる。


 「貴女は村長むらおさです。御身を大事に願います」


 いくら勇敢であったとしても、彼女はなくてはならない人間なのだ。旧知の仲だというのもあり、レーラはより慎重になった。


 「ええい、七面倒くさいの。だったら、森中を爆撃してくれるわ」


 「止めて下さい。それこそナルトGTも粉々になってしまいますよ?」


 「くぅ!イモ質か!味なマネを!」


 ゾフィは相当に悔しがるが、そもそも人質、いやイモ質を取られたわけではない。


 「ゾフィ様、ノっておられれますね……」


 ヴェルヘルミナとレーラにコソコソと話かける。確かに見ていて面白いのだが、レーラとしては頭痛の種である。ほとほと呆れるだけなのだが、彼女の実力は百余年の付き合いであり、信頼はしている。


 「エルザさんは、状況が把握出来次第亜人種(デミヒユーマン)部隊の指揮及び、殲滅行動の支援をお願いします。ヴェルヘルミナさんには、万事があっては結界が壊れてしまいます。待機を。まずは私とゾフィで、周囲を探索してきます」


 レーラが淡々と仕切り始めると、二人は快く頷いてくれる。


 いくらエルフの防御魔法とダークエルフの攻撃力が優秀であったとしても、至近距離での大量の火力を受けきることも、受け流すことも出来ない。


 すでに、村に広大な結界を張っているヴェルヘルミナが戦闘に加わったとしても、それほど多くの事が出来るわけではない。


 ゾフィもレーラも剣士筋ではないが、人間が相手の場合、寧ろ魔法の方が有効なのである。

 

 「では、行こうかの」


 一通り状況の整理できたゾフィが腰を上げる。


 二人は、村を守っている結界を出ることになるのだが、この時はあえて上空からではなく、結界をすり抜けるようにして表へでるのであった。

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