第1部 §2 第4話

 この世界の地上は、圧倒的に森林が多い。


 一つは、人間が開拓をしてこなかったと言うこと。二つ目は、ルシファー復活と同時に、世界が大きくねじ曲がってしまい、本来隔絶されていた、デミヒューマンと人間の世界が、一色単になってしまったこと。


 三つ目は、デミヒューマンの住む世界の植物達は、生命力旺盛だということ。


 ただ、それが極端な自然破壊に繋がっているのか?というわけでもなく、皮肉なことに彼等は貧弱な栄養でも、良質で沢山の果実を身につけるため、それが数百年も続いた現在では、大地は非常に肥沃なものとなっているのだ。


 勿論環境としての砂漠も存在しているが、基本的にそれほど多くはない。それが必要であると知っているかのように、必要な分だけ残されているといった感じだ。


 世界は人間に厳しくとも、彼等の食物連鎖においては、決して残酷な決断を下してはいないのだ。


 二人は、集落上空に到達すると、飛空船から飛び降りる。


 高位魔術師ともなれば、飛翔の魔法を用いるくらいは余裕といった所だ。


 ただ、永続的にそれを使用し続けられる者と言えば、本当に一握りの存在で、ゾフィもレーラも、その一握りの人種ということになる。


 正直に言ってしまえば、二人にとって、飛空船でやってくる必要も、そもそも無いのだ。


 ただ、適切な場所へ来る必要性と、無駄な浪費を控えるといった意味で、そうした手段を用いているに過ぎない。


 「集落はあまり大きくはないようですね」


 上空から見るに、拠点としての重要性はあまりないようだ。高い建物でも、精々五階もあればいいところだし、道路なども、特に舗装されている様子も無く、集落の外周も五百メートルもないだろう。周囲は、砦で囲まれており、幾つかの櫓が組まれている。


 規模として、確かに手頃な集落なのかもしれない。


 ただ、話に聞く重火器を用いて襲うにしては、あまりにリスクが高い。


 この場合、リスクというのは、ゾフィやレーラのような存在が駆けつけるという意味であり、


 彼女達に目をつけられると言うことは、組織そのものが一網打尽にされかねないということである。


 「それに、誰が張ったかは知らぬが、見事な結界だのぅ。思いの外、集落そのものは無事のようだが?」


 「ですね。見たところ、ダークエルヴンシャーマンの技のようですが?」

 「ふむ……。都合が良すぎるが……良かろう」


 二人は集落の中央広場に降り立つことにする。何故二人が集落に降り立つことが出来たのか?と、その理由は単純で、防御結界が張られているのは、側面だけだからだ。


 この世界で、上空からの侵入方法を持っている時点で、それはもう軍隊である。そう言う適切な判断をしての結界で、エネルギーの浪費も避けられる。


 上空から、二人が現れた瞬間、デミヒューマンの混成部隊が、わらわらと集落の広場に集まり、彼等に武器を向ける。


 これだけ緊張した現場に、何の知らせもなく現れたのだから、それは確かに警戒の対象となり得る。そもそもこの集落に対する通信手段がない。


 この世界における通信手段は、基本的に無線である。有線ではないから無線であり、決してローテクノロジーな半二重通信を用いた手段という訳ではない。

よって、レベルの高い通信手段がないと事実上、途絶状態となってしまうのだ。


 「まぁまてまて!ほれ見てみぃ」


 ゾフィーはアカデミーのIDカードを取り出し、周囲にそれを見せる。

 それから、一応武器となる杖も、地面に置き、レーラも弓を地面に置き、両手を挙げる。


 エルフの兵隊が一人、二人に近づき、ゾフィのIDカードに魔力を注ぐと、宙に彼女の個人情報が出力される。このように凝った構造になっているのは、当に偽造防止のためであり、そのテクノロジーがアカデミーのものであるという証拠にもなる。


 そして、個人情報欄の一番下に、「認証」という文字がポップアップする。


 「どうやら、本物のようですね」


 エルフの口調は、基本的に丁寧である。


 「ウム。で、この見事な結界を張り巡らせた当人に会いたいのだが?」


 ゾフィは、周囲を見回す。


 「ゾフィ様!」


 そのとき、驚嘆と感嘆の入り混じった声がする。女性のものであるが、同時に慌ただしく彼女の所へと駆け寄ってくる。

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