第1部 §2 第3話
「準備は出来ましたか?」
ノックも無しに、ゾフィの部屋にレーラが入ってくる。
「なんじゃ?汝も行くのか?」
「重火器を持って集落を襲うということは、ただ闇雲にというわけでもないでしょう?恐らく、後方に何らかの供給源を持っているはずです」
「無論じゃろう。ただ、今はきりが無いぞ?」
「そうですね。ですから、少々抑止力というものを見せる必要も、あると思いまして」
「フム……それも一理ある……か」
ゾフィは妙に納得する。抑止力というならば、自分達が使える尤も効率的な方法を使えば良いのだが、それならば逆にレーラが付いてくる必要は無いと、ゾフィは思う。だが、彼女がついて来るということは、要するにゾフィに対するお目付役でもあるのである。
では、ストームがそれを命じたのか?といえば、そうではなく、長年付き合いのあるレーラの判断である。
勿論他の事件があればそちらへ向かうのだが、基本的に防衛だけならば、集落を警護している、エルフやダークエルフに負かせれば良いのだ。
オークと違い、エルフは魔法に長けているため、彼等は主に、そういった所で外貨を獲得している。
エルフとダークエルフは基本的に、犬猿の仲であるが、レーラとゾフィが、所謂一つの友好的象徴となり、今は両者もそれほぞ、いがみ合うことはない。
この世界は、実は混沌としつつも、これでなかなか上手い具合に回っているのである。
ただ、数的に優位な人間は、時折このバランスを崩しかねないのだ。この種族ほど、多種多様で自由なものはないと、気ままなダークエルフをもってしても、そう思わせるほどだ。
そして、その自由は何とも自分勝手で、自滅的だ。
尤も、どの種族にもこうした無頼者はいるため、一概に人間だけが―――とは、言えない。要は母数の問題なのだ。
レーラも身支度を調える。
ゾフィがローブであるのに対して、エルフは衣である。一見ギリシャ神話に出てくる神々が纏うような衣だが、胸元が大胆に開いており、その背中も露わになり、厳格さのある種族にしては、露出度の高い服装である。
ただ、非常にシンプルで動きやすいという合理性もある。
そして、エルフが尤も得意としているのは、弓術である。
剣術も使いこなせるが、デミヒューマンの中でも、比較的腕力のないエルフは、あまり接近戦を得意とはしていない。
力の強さで言えばドワーフが一番であり、次いでオークとなる。
ただ、武器を持たせての戦闘となると、オークの方がより攻撃的で、ドワーフは守備的といえた。
エルフ族は俊敏であり、特にピュアエルフは弓術を得意としている。接近戦に於いては、魔法の助力無しでは、前二者に及ばない。勿論魔法も得意としており、特に守備系の魔法を、より得意としている。
エルフは基本的に個人の個性で、ファイターになるか、アーチャーとなるか、または、エルヴンウィザード、シャーマン、ヒーラーと自らの得意分野に進む。
これに対してダークエルフは、ウィザード系と、戦士であるバーサーカーと、明確に分かれており、ウィザードが攻撃魔法を得意としているのに対して、バーサーカーは、力が強く接近戦に長けている。
また、特殊クラスとして呪術が得意な、エルヴンシャーマンが、存在する。
バーサーカークラスは、身体能力を生かし、エルフと同じくアーチャーとしても戦えるが、単純に物理戦闘はどれをおいても、一流である。
ウィザードは、攻撃魔法を得意とし、防御魔法もそれなりに使いこなせる魔法のエキスパートだが、ヒーリングスキルは極めて低い。
そして、好戦的な性行もあり、絶対数そのものが、エルフよりも遙かに少ない。
ゾフィのように、高位ダークエルヴンウィザードとなると、可成りのレアといえた。
二人は、アカデミーの所有している飛空船で、問題の地域まで行く。飛空艇は小型で高速のもので、その性能は通常の飛空艇の比ではなく、最高速は音速に達する。当然機密性にも優れている。
ゾフィとレーラは、改めて集落に関する情報に目を通す。勿論紙などではない、空間に投影されたスクリーンに、目を通しているのだ。
この辺りは特に、古代科学というよりは、投影の魔法スキルに該当する。術式を物質に付与し、そこにエネルギーを与えてやれば良いのだ。
ただ、現在、現地からの連絡は途絶えてしまっているため詳細は不明だ。
集落そのものが没してしまった可能性も否めないが、大体は、何らかのジャミングである可能性が高い。
大抵は、通信途絶という条件は、事前処理の過程であり、事後に発覚するものではない。早まった戦闘行為が行われたかどうかにもよるが、兎に角今は状況が解らない。
「しかしまぁ、少しすると直ぐに集落を作りたがるのう。街でよかろうに……」
「矢張り、街は異常なのですよ。世界と隔絶していた『壁』は、人間達にとっても、抑圧の象徴なのでしょう」
「難儀だのう。つい百年ほど前まで、己等の命を守っていた一線だというのに……」
「レイン様も、『壁の上は好きだが、壁の内側は空気が悪い』とおっしゃっておりますし、私もそう思います」
「そんなもんかのぅ」
ゾフィは、高速で流れる、雲を見てから地上を眺める。
海岸線沿いの向こうに鬱蒼とした森が広がり、その中に微かに見える、壁に囲まれた街が見える。
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