第1部 §2

第1部 §2 第1話

 ゾフィは、泣き疲れた彼女の頬を指の背で撫でる。その表情は未だ少女と大人の中間にある。


 ゾフィは、まるで実妹でも慰めるかのような、非常に穏やかで優しい表情をしている。


 事実、彼女はゾフィよりも、百ほど年下である。余談であるが、レーラとは年が近く、ストームを含め、五人の中では一番の年上である。


 自らの欲求に対しては、非常に子供じみたまねをするゾフィだが、それでも彼女は知性高きダークエルフなのである。


 「そう、己を責めるでないぞ」


 ゾフィは、シーツ一枚しか羽織っていない彼女を、唯見つめている。

 が、しかしである。


 「レイン殿を見ていると、こう……如何わしいモノを見ている気がしてならんのう」


 ゾフィは急にムズムズと、指を宙で蠢かせ始める。一本一本が独立して動くほどの器用さであるが、その運指は、卑猥である。


 彼女の名はレインといい、ゾフィは彼女の事を「レイン殿」と呼ぶ。ゾフィはレーラと違い、レインを、自ら仕えるに価する人間だとは思っているが、基本的にあがめ奉っているわけではなく、立ち位置としても矢張り、年上らしいポジションなのである。


 勿論それは、成立した関係であり、プライドのなどの拘りは、一切関係のないことだった。


 ゾフィが、レインをなんとも如何わしいというのは、彼女の少女と大人の中間的なスタイルを指してのことだ。


 上半身は華奢で、下半身は妙に大人びており、肌も非常に瑞々しく、大人の落ち着いた肌合いではなく、矢張り十代特有の質感をしているのだ。


 オシリは少々大きめだが、決して無駄に大きい訳ではなく、バランス的にそう見えるのだ。


 「相変わらず健康的な代謝よのう。肌に嫌な匂い一つついておらぬ……」


 ゾフィは、添い寝をしつつ、レインの肌に鼻を利かせる。レインの肌からは、爽やかで甘い香りが微かに放たれている。それでいて微かにとろみがあるのだ。


 強いて言えば、桃の果汁の香りだと言える。それそのものは、レインが元々持っていた香りだと言うよりも、日々の食生活のたまものと言うべきで、彼女に魔性の気があったり、男性を引きつける特別な何かが、元来備わっているというわけではない。


 ゾフィが、レインのシーツに潜り込み、あれこれとし始める。


 そして、在らぬ所にゾフィの指先が触れた瞬間、レインは顔を真っ赤にして、目を覚ますのだった。


 そして、後ろから抱きついているゾフィを、振り返り様に、押し放す。


 「ぞぞぞ!ゾフィさん!?」


 レインは、自分が何をされているのか気がつき、可成り気を動転させているが、ゾフィは、悪びれることもなく、笑顔を作っている。


 「はぁ……、もう……びっくりするよ」


 ゾフィはそれほど強引ではない。レインが目を覚ますと、それ以上の事はしない。勿論レインもそれはよく知っているし、ゾフィは日常茶飯事に、レインの貞操を狙っているわけではない。


 「いやなに……。相変わらず罪なお方だと思うてのぅ」

 「つ……罪ってナニよ……」


 「睦み合えるフィル殿に、少々や気持ちを妬きますぞ?」

 「ふぃ……フィルは特別なんだよ」

 「存じております」


 レインは照れている。照れているが関係を否定するわけではない。レインとフィルの付き合いは、それこそ互いが十代の頃からだ。


 勿論ゾフィ達との付き合いも、レインから見れば、十代からのことだが、ゾフィからら見ればレインとの付き合いは、人生の半分程度というのが現状である。その分どうしても、レインを子共がちに見てしまうゾフィであった。

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