第1部 §1 第5話
彼は人間……いや、元人間というべきか。
外見は青年だが、その年齢は、百を超えており、人間の寿命は十分振り切っている。
それでも彼は若さを損なわず、また、その思考も若いときとあまり変化がない。レーラは、ストームをじっと見ている。ゾフィの素行は、すでに彼の耳にも届いているのだ。レーラはそれを発表するように、無言の圧力をストームにかけているのだ。
特に二人の立場に上下があるわけではないのだが、それだけレーラがきっちりとしている、エルフらしい性分だということである。
「っと……。十代の少年をホテルに連れ込むとかは……止めた方がよくない?」
ストームは、苦笑いをしながら、やんわりとゾフィの素行に注意を促す。
それを指摘されたゾフィは、ぎくりとした表情をして、ガトーショコラに伸びていた手が、一瞬止まる。
「よ!良いではないか!互いに同意の上ぞ!?」
「いや、同意っていってもさ……」
「全く……」
レーラは呆れてしまう。これが自分の相方かと思うと本当に頭が痛くなってしまうのである。ただ、ゾフィの言うとおり、彼女の節操のなさは、在る一定の良識の上になりたっており、無理矢理どうこうという訳ではないのだ。
ただ、ダークエルフの色香であれば、大半の男性は魅了されてしまうため、そこに強制力は働いていないのか?というのは、甚だ疑問なのである。
勿論清楚なレーラが同じように男子に声を掛けたとしたら、それはそれで彼等を逆上せさせてしまうに違いないのだが―――。
レーラは、お預けにしていた、ガトーショコラをゾフィの目の前におくことにする。
「し、仕方がなかろう?我も考え事をしていたし、その少年も考え事をしていたらしく、ぶつかって我の持っていたソフトクリームが、こう胸元にべたっとなってしまったのだ」
ゾフィは大きく開いた胸元を、一度さらりと撫でる。
指先で撫でた瞬間弾力のあるバストがプルンと微かに、そして魅力的に揺れる。
それは可成りの手触りなのだろうと、ストームは少し行けないものを見てしまったかのように、視線を反らす。
「まぁ……少々その少年の悩みとやらをのう?」
「同意を求められても困りますが……」
「悩める少年が、背徳感に苛まれなつつ瞳を潤ませながら、我によじ登ってくるのじゃ……もう、可愛ゆうて可愛ゆうてのう!」
思い出すだけで、興奮するゾフィは、スプーンとフォークを手放せないまま、自らの両肩をギュッと抱いて、感極まって震えているのだった。
大体の構図は想像の付くレーラが、ぷい!と、そっぽを向いてしまうが、好色家であるダークエルフは、同時に非常に強い母性も持ち合わせている。
残忍さと狡猾さも持ち合わせているが、そうした深い愛情もまた、彼女の魅力なのであるが、少々行き過ぎの感が否めない。
それを見たストームは、本当に苦笑いをするしかなかった。
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