第1部 §1 第4話

 アカデミー本部―――。

 

 アカデミー本部は、現在ジパニオスクという、島国のあった海上に位置し、浮遊した人工島に存在している。

 いや、島そのものが建造物といってよい。

 なぜ、島国があったと表現しなければならないのか?というと、過去二度にわたるルシファーとの戦闘のうち、最初の戦いの時に、大半が吹き飛んでしまったからだ。

 其処には今でも強い磁場が存在し、世界の中でも尤も不安定な場所でもある。

 アカデミーは、いつその歪みが不安定になるかもしれない磁場を管理し続けているというわけだ。

 実際人工島の真下は、本来海上であるべきなのだが、其処には大闇が、さながらブラックホールのように渦巻いている。ただ海とこの闇の間には、境界線があり、海水が闇の中に落ち込むことはない。

 島の直径は三十キロメートルほどあり、浮いているのが信じられないが、それでも事実として浮いている。

 島の全体の家贓物としては、ガラスのように透明感のある高さ数百メートルはある高層ビルと、豊かな緑で埋め尽くされており。非常に優れた交通網が整備されている。

 大半が半重力で制御され、燃焼ガスを一切出さない動力で動いているのだが、その源は、無限のエネルギーを生み出す魔力炉から得ている。

 アカデミーが世界に多大な影響を与えているのは、当に無限魔力炉があるからなのだが、これそのものは、私利私欲のために、彼等が管理しているわけではない。

 その成り立ちは後日談だが、世界のオーバーテクノロジーの九割は、間違い無くアカデミーが世界に寄与したものであるといえた。


 そんなアカデミーの一室。

 「全く!ゾフィ貴方という人は!」

 ソファで寛ぎながら堪えない説教を受けているゾフィであるが、彼女のいる一室は、当にアカデミーの中枢で、そのトップが君臨する場所でもあった。

 そして、ゾフィを説教しているのは、レーラ=グレアスというエルフで、当にダークエルフとは犬猿の仲と言うべき存在なのだが、この二人はこの百年来の友人であり、お互い切っても切れない腐れ縁である。

 こちらも容姿端麗、眉目秀麗であるエルフだが、鋭さのあるダークエルフとは違い、エルフは非常に上品な様相で、切れ長の目元も、目尻が柔らかく、口元にも優しさがあり、雰囲気も容姿もバストも非常に清楚で清潔感のある種族である。

 そして程よく無駄無く過不足無くあるのが、エルフのバストである。

 ダークエルフは、頭髪が銀であるが、エルフはプラチナブロンドの頭髪であり、肌も透き通るように白い。

 艶やかさのあるダークエルフに、しっとりときめ細やかな柔肌のエルフという組み合わせだ。

 「五月蠅いのう……纏まったから良いではないか」

 レーラのお小言を毎度聞かされているゾフィは退屈そうにしている。それでもゾフィノ前には、ガトーショコラのケーキと、すっきりと後味の良いアールグレイのストレートティが出される。

 それを見たゾフィは、顔を賑やかにさせ、金色の瞳をキラキラと輝かせて、ご相伴にあずかろうとする。が、レーラは、反省のないゾフィから、一度それを取り上げる。


 「我のものぞ!一々意地悪よのぅ!出したり引っ込めたり!」

 スイーツを取り上げられたゾフィは、まるで駄々っ子だ。それでもレーラはじっとゾフィを見つめている。

 「解った!我が悪かった!しかし、爆炎魔法で死者はでておらんぞ!?」

 「当たり前です!それより、その後、予定より一日遅れての帰還の、理由を聞きたいのですが?」

 「べ……別にも何もないぞ。それに、帰還命令も無かったではないか……」

 「ありませんし。出すのはストームさんですから、貴女の行動を制限する理由はありませんが……」

 「が……なんじゃ!はよう、それを寄こさぬか!」

 ソファーからは立ち上がりたくないらしく、両手だけでガトーショコラを追い回すゾフィと、それを弄ぶレーラだった。

 「ストームさん……」

 レーラが振り返り、立派なオフィスデスクに腰掛けている一人の青年に、話を振る。

 「え?」

 苦笑いをしながら二人のやり取りを見ているのは、ストーム=イースターという青年だ。

 金髪をオールバックにしている、ベビーフェイス気味の爽やかな青年である。西洋人だが、顔の彫りはそれほど深いわけではなく、表情全体は非常に明るさがあり、少々頼りない雰囲気もあるが、彼自身は非常にしっかりしている。

 彼の立場は、アカデミー総帥代行というところで、現在アカデミーの本総帥は、不在である。彼はそれまでの、代理なのだが、これもまたいずれ語られる話としておこう。

 

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