第1部 §1 第3話


 「で、汝等うぬらの言い分を聞いてやろう」

 高飛車な第一声。

 妖艶で美しく気高く、高身長なダークエルフが、前傾姿勢的に前屈みなオーク族を見下げる。

 総じて言えることだが、ダークエルフは、細く面長で、眉目秀麗、容姿端麗であり、ネコのように釣り上がった目尻が非常に高慢さに満ちている。

 身長は百八十センチにほど近く、九等親である。質量の多い銀の頭髪が、ふわりと風に靡くのだ。その度に魅惑的に甘い香りが周囲を漂う。

 ただ、香水をつけているわけではない。食生活で、その色香が際立つように気遣ってはいるが、ダークエルフはそもそも、魔性の性質を持っている。これは、男女を問わない。そして好色家でもある。

 しなやかな肢体に、つんと張りのあるバスト、無駄無く引き締まり、それでいて、女性らしい腹筋周りに括れたウエスト。張りのあるヒップに程よく肉付いた太ももに、引き締まったふくらはぎ。

 そんな彼女の立ち姿は、間違い無く女帝と呼ぶに相応しい。

 

 ただし……である。

 

 「な!何が聞いてやるだ!ガスマスクなんかつけやがって!ウガ!」

 身長が百五十センチ程度で、隆々とした筋肉質のオークが、拳を振り上げて、まず彼女のその出で立ちに、怒りを表す。

 「仕方がなかろう?ダークエルフの五感にには、汝等の体臭は少々堪えるのだ。それに、これは消臭マスクであり、ガスマスクではない。別に汝等を毒扱いしているワケではないぞ」

 煌びやかな魔導師のローブを身に纏い、ガスマスクをつけている彼女のその姿は、何とも滑稽なものではあるが、オークとしては笑えない話だ。

 「失礼だウガ!俺達は、毎日風呂に入ってんだ!ウガ!」

 「清潔であるかのどうかではない。趣味趣向の問題だ」

 ゾフィは、ふんぞり返りつつ、全く悪びれる様子もなく、ただオーク達の前に立ち塞がるのだった。

 オーク達は、苛立ちながらも言葉の出る限り、ゾフィに人間達の対応の不平等さを訴える。

 変われば変わるものだとゾフィは思う。元々オークは、人肉を好む種族である。

 その彼等が、ルシファーの消滅と同時に、人肉に対する興味を削ぎ、家畜を育てたり、狩猟中心に、生活をするようになった。

 農耕も行っているが、農耕に関しては、ホビットの方が歩があり、同じ農作物を売買するのなら、圧倒的にホビット側だった。

 ゾフィは、一通り話を聞く。

 「なるほどのう。つまりあれだのぅ。主等は、圧倒的に交渉術に遅れを取っておるの」

 何度この結論に行き着いたか……である。今更の話なのだ。


 オークは、それほど知恵の回る種族ではないのだ。好戦的で短絡的。そんな彼等がこうして我慢しているのは、とある約束があるからだ。

 しかし、彼等の様子を見ているとどうにも腹の虫が治まらないようだ。

 「まぁしばし待て。もう一度人間側に話を聞いてきてやる」

 「ほんとうかウガ!」

 「待つウガ!ダークエルフの公証人は、パフェ一つで、買収されると、SNSに書いてるウガ!」

 「ぬぐ……」

 この世界は非常にアンバランスであり、古典的な魔法が存在する反面、衛星ネットワークを介した通信網などは、非常に発達している。

 こちらもサテライトネットワークシステムといいSCS(サテライトコミュニケーションシステム)をベースに、より軽量化、大衆化されたシステムをいい、通称SNSなのだが、彼等のいうSNSは、所謂ソーシャルネットワーキングサービスの略のことである。勿論そんな彼等の手には、スマートフォンが持たれていたりする。

 「だ!黙れ。だれだ、そんなデマを流すのは!大体オークのくせに、スマホとは、生意気ぞ!」

 ゾフィは身振り手振り否定するが、今までの高慢で高飛車な態度から一転して、慌てふためいている。

 それにしてもオーク達がそのようなものをやり始めているなどとは、中々小癪なものだと、ゾフィは思うのであった。そして、もう言葉に出してしまっている。

 疑心に満ちたオーク達の視線がゾフィに突き刺さる。

 「ええい!この、下等民族が!」

 そう言って、一発爆炎系の魔法をぶちかますゾフィであった。更に、この後同じように人間達の所へ出向いて、オークとの説得は出来たのか?と、散々に責め立てられた挙げ句、同じように魔法をお見舞いして、事態は悪化の一途をたどる。

 となるところだったのだが、これ以上彼女に暴れられては困ると思った両者は、ゾフィに帰って貰う貰うために、速やかに交渉へと入るのだった。

 雨降って地固まるとでもいうのだろうか。結果的に目的は、果たされることとなる。この結果から少し、そうほんの少し後、ゾフィは、アカデミーの本部へと帰還することとなる。

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