第1部 §1 第2話

 ただ、竜歴が終わり神歴が百年も過ぎた今日(こんにち)では、事実の大半は忘れられており、アカデミーという組織は、神にも匹敵するほどの存在で、もはや伝説に等しいのが現状となっている―――。

 と、言いたい所だが、実は何気に、地道な活動をしていたりする。

 たとえば、種族間の争いが勃発したときの調停役などだ。ほかにも色々細かな作業を行っているが、兎に角種族間の苦情処理が目立つ。

 

 実はこの日も、オークと人間の間で、トラブルが起きていた。

 トラブルと言っても、個人同士の細かなものではない。

 交易所をオークが占拠し、ストライキを起こしてしまったのだ。

 腕力でいえば、人間とオークでは、オークの方が圧倒的に歩があり、彼等の結束力は、人間よりも強固だった。知恵を使う事はあまり得意としなかったが、彼等のバイタリティは狩猟に向いており、この百年間彼等は、その生活に十分誇りを持った生き方をしていた。勿論他種族との関わりにおいても、それなりに満足をしている。

 

 では、何故交易所を占拠したのか?というところから、この物語は始まる。

 

 そもそも交易所とは、様々な種族がそれぞれの得意分野を生かし、様々な商材食材をやり取りをする場である。

 勿論交換には、通貨が用いられ、今ではどの種族も通貨を用いて、交易をしている。

 人間は、主にテクノロジーを駆使するが、他種族は魔力を宿したアイテムを用いて、それを商品としたり、人間では狩猟できない食材を捕獲したりしている。

 

 「で?オークが交易所を占拠した理由とは?」

 一人の女ダークエルフが、まず会話の出来る人間達に、事情を訊ねる。

 彼女の名前は、ゾフィ=プレアデスという。彼女はアカデミーに所属している。アカデミーには、様々な種族が存在するが、基本的には、非常に理知的な集団であり、商工を得意としたドワーフや、技術的な追求を求めず、平和的なホビットは、あまりいない。

 あまり、というのは、中には変わり種もいたりするということだ。基本的に科学技術を求める人間が多く、次いでエルフという構成になっている。

 ダークエルフもいるが、エルフと違い、好戦的で気ままなダークエルフは、自治のためのルールは求めても、アカデミーの求めるルールや禁忌などには、無関心である。

 その中で、ゾフィという存在も、矢張り変わり種といえるのだろう。

 ドワーフや、ホビットなどは、それぞれの技術の追求を求めて、アカデミーに加わる事波もあるが、基本職人気質の彼等は、論理というよりか感性や感覚に頼る生き方をしているため、理詰めのアカデミーとは、あまり肌が合わないのだ。

 

 人間達の理由は、需要と供給の関係だそうだ。供給源が多ければ価格競争が生まれるのは、当たり前のことだ。尤もな理由だ。

 ただ、エルフ族は非常に聴力が鋭いのだ。というよりか、五感に関して言えば、人間とは比較にならない。

 だから、彼女は一方的に人間の話ばかりを聞かず、オーク達の言い分にも耳を傾けることにした。

 解決とは、フェアでなければならない。

 別に彼女の信条というわけではないが、今ここに存在するアカデミーは、そう言う組織なのである。そして、こういうもめ事は、ほぼ日常になっている。どちらかを贔屓すると、それが慣習化されかねないのである。

 

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