Am ―― 劣化天使 ――

城華兄 京矢

第1部

第1部 §1

第1部 §1 第1話

それは、一つの時代が終わりを告げ、百年ほど時が流れた頃の話。

時代が神歴と呼ばれるようになってからのことだった。

それまでは、街と呼ばれる巨大な都市国家を、竜が守護していたことから、竜歴と呼ばれていたが、彼等はある日突然、街を守護することをしなくなった。

その理由は多くの人間には分からなかったが、龍が姿を消してから間もなくして、魔王ルシファーが現れ、世界の半分を焼き尽くした。

そのルシファーも、神との七日間にも及ぶ壮絶な戦いに敗れ、世界は再び平和となる。

ルシファーが姿を消すと同時に、幾種のデミヒューマンは、その激しい闘争本能を失い、人間との共存を選ぶようになる。

竜が都市国家を守護していた理由は、当にこの種族感同士の争いのためであり、それまで人間は、竜に守られて生きていたのだ。

今でも、その名残はある。大きな街は、未だに百メートルは優に超す、巨大な外壁の中にあり、其処は今でも人間中心の街として、世界中に点在している。

ただ、街の入り口であるゲートは、殆ど閉ざされることなく、外界との入り口となっている。

人間と対立していた種族の中で、社会に溶け込むようになった代表的な種族は、エルフ、ダークエルフ、オークである。

元々エルフとダークエルフは、交わらないだけのことであり、争っていたわけではない。

激変したのはオークであり、好んで食していた人肉を欲することもなくなり、狩猟と農耕を中心にその生計を立てていた。

ドワーフやホビットは、元々エルフ達との交易があり、人間とデミヒューマンとの関係が和平に向かうと同時に、いち早く交流を持った種族である。

残念ながらゴブリンは未だに、強襲による殺生与奪を止めずに生きている。

ただ、何も彼等だけが天敵ではなく、世界中には、人間の理解を超える超獣と呼ばれる魔物や動物が存在し、翼竜のようなものから、巨大な山のようなイノシシさえ、存在する。

ただ、多くの生物は、人間に対する捕食性を失い、生態系としては、大ざっぱながらも、ある程度のバランスが保たれていると言えた。

加えて、人間達は自由になった分、盗賊稼業を行う者達も現れ、集落を襲撃などしていた。


集落というのは、神歴に移り、世界が解放されてから生まれた人里のことを指し、街とは、基本的に、壁に守られた人間の都市のことを指す。

エルフ達が元からいた土地も、集落や村ともいうが、共通認識としては、それが一般的だった。エルフ達の住まう場所は、基本的に里と表現される。


街と集落には、明確な差があり、街には近代的、あるいは未来的な設備があり、半永久炉で豊かな生活をしており、集落には、そのような設備はないというところである。

交通手段にまつわる技術は、存在しているが、残念ながらこの百年という時の流れの中、その進歩はほぼ皆無と言って良い。

技術の進歩が見られなくなったのは、アカデミーという組織が、神歴が始まると同時に、沈黙を守ってからになる。この世界では、彼等が技術の総てを供給している唯一の存在だった。

何故アカデミーが沈黙を守っているのか?は、謎だが。少なくともそれが理由で、生活ベースでは、人間が一方的に拡充する事も出来ず、種族感のバランスも、比較的守られているのは、確かである。

何せこの時代のハイテクは、オーバーテクノロジーであり、車といえど、半重力エンジンで、地面から一定の距離を空け、走っていると言うより、浮いていると言った方がよい代物なのだ。

それだけの技術を、人間だけが一方的に振るってしまえば、ルシファーから世界が救われた意味そのものが希薄になってしまう。結局支配者が人間に変わってしまっただけに過ぎない。

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