第二十一話 告げる
隠していた力。創力という俺の固有スキルを打ち明ける事にした。
ラセリア達も薄々何かあると勘付いていたであろうし、何時までもよく分からん力を持った男と一つ屋根の下というのも、精神衛生上よろしくなかろう。
「そうりょく? 創る、力ですか? それは魔力とは違う、のでしょうね。ええと……聞いても、よろしいのですか?」
ラセリアが恐る恐る訪ねてくる。
「ああ、俺の固有スキルを使うのに必要な力の源だ」
問題ないと、俺は頷く。
「本当に、よろしいのですか?」
「勿論だ。随分と気を使わせたみたいだしな。そろそろ話すよ」
「はい! 私を信用して下さって、ありがとうございます!」
「ははは、礼を言われるようなことでもないだろ」
「それでも、です」
「じゃ、最初は俺の固有スキルについて話そうか――――」
こうして俺は、彼女に創力とスキルの事を、打ち明けるのであった。
話を聞き終わって、彼女は言った。
「サトル様、今更私が言わなくても、十分に御理解しているのは分かっていますが、敢えて口に出させて頂きます。創力と固有スキルの事は、決して他人には教えないようにして下さい。これらは、使い方によっては一夜にして国を滅ぼすことも出来る危険な力です。もしも知られたら、貴方にその気がなくても、周りが放っては置かないでしょう」
俺の身を案じての忠告だった。それを素直に受け入れ、頷きながら答える。
「だろうな。だから今まで隠していた。気を悪くするかもしれないが、ミゲルさんやラセリアの事を信用できるまでな」
「いいえ、気を悪くだなんてしませんよ。お祖父様もです。それくらい用心するのが普通だからです。サトル様こそ、お気になさらないようにして下さいね。真面目で義理堅いところは、ふふ、サトル様の素敵な部分だとは思うのですが、この世界では親しい間柄でも用心するくらいで丁度良いのですから」
「そうか。って、俺は義理堅くて真面目か?」
恩を仇で返すような真似はしないよう心掛けてはいるが、自分が真面目な人間かと言われると首を傾げる。
「はい。他人と問題を起こさないよう常に気を配って、毎日危険な魔物を駆除して、女生と夜二人きりになっても一切変な気を起こさない。このような男性を、真面目と言わず何と言いますか?」
「そう言われてもな……気を配っていたのも、魔物狩りも、全部自分のためにやっていたことだしな。最後のに至っては、じゃあ俺が変な気を起こしていたらどうなってたんだよ、と逆に聞きたいくらいなんだが?」
危機意識が足りないのではないだろうか? 女の身でそういう意識では危ない。
「責任を取ってもらうだけですよ? うふふ、何時でも好きな時にどうぞ」
ある意味、危ないのは俺の身体だった。
彼女はそれを望んでいたのである。
目が本気だ。
チョットコワイ。
「おいおい…………というかズバリ聞くけど、何で俺なんだ?」
まどろっこしいのはやめだ。俺のどこが気に入ったのか直接本人に聞いた。
「私の目は特殊でして、普通では見えない様々なものが見えるのです」
しかし返ってきたのは関係のない答え。
「特殊な目? 固有スキルか?」
意味があるのだろうと、話を最後まで聞く事にする。
「はい。【九源の瞳】という名の固有スキルです。常時発動型で、人や物の能力を見る事が出来る他に、人や物に宿る悪意も見抜くことが出来ます」
強力な看破系のスキルを持っているとは思っていたが、予想以上の性能であった。
「常に悪意が見えるのか……それって辛くないか?」
「今は慣れたので、そうでもありませんよ。ある程度の制御は出来ますので、常に悪意に晒されて精神を病むなんて心配もないですし」
俺の心配を余所に、あっさり答えるラセリア。
今は、か。よく人間不信にならなかったものである。
いや、もしかして……なったから、こんな田舎で過ごしているのかもしれない。
「そりゃ良かった。で、その目で俺を見てみて、どうだったんだ?」
俺は明らかに善人ではない。偽悪を気取るつもりはないが、悪意の量が人よりも少ないとは思えない。彼女の目にどう映っていたのか気になる。
「何も見えませんでした」
「え?」
「創力や固有スキルもそうでしたが、私の瞳ではサトル様の悪意を見る事は出来ません」
「本当に何も見えないのか?」
「あ、基本能力値は見えましたが、それだけです。他は何も」
ミゲルさんの【看破】と同じ程度にしか見えないと言うことか。
「どういうことなんだ? 俺が別の世界の人間だからか?」
「無関係ではないでしょうが、それが直接の理由ではないと思います。ならば能力値も見えない筈ですから」
「では他に、どんな理由が考えられる?」
「恐らくですが、【九源の瞳】でも見る事の出来ない固有スキルが、関係しているのだと思います。固有スキルは所持者の魂に根ざしたもの。それが見えないのなら、心の動きを見ることが出来ないのも道理かと」
「他の人の固有スキルは見れるのか?」
「はい。これまで見えなかった事はありませんね」
「ということは、俺のだけが異常なのか」
やっぱり俺の固有スキルは、この世界の規格から外れたスキルということだ。
規格外というと格好良い感じだが、この場合は標準から外れた仕組みという意味である。
不利益を被ってはいないから、別にいいのだが。
「そんな男を相手にするなんて不安じゃないのか?」
何を考えているのか分からない男なんて、悪意が見える男より危険な気もする。
「不安ですよ。でも、だからこそ私は、サトル様の前でだけは、普通の女でいられるのです」
「どういう事だ?」
不安。それを認めた上で、ラセリアは俺の顔を見詰めながら話を続ける。
「貴方の一挙手一投足から、お心を感じ取らなければならない。私の事をどう思っているのだろう? 何か気に障るようなことをしてしまわなかっただろうか? そんな事に頭を悩ませる毎日。これが、どれだけ幸せな事なのか、他の人には分からないでしょうね」
「……」
「何ヶ月も一緒に暮らして、その間ずっと貴方のことばかり考えて、そしてサトル様の事を好きになる。私って変な女ですか?」
「いや、普通、なんじゃないか?」
「はい、普通ですよね!」
なるほど。普通に異性に興味を持って、普通に時間を掛けてその人の事を知っていく。
ラセリアにとってそれは、とても特別で貴い事だったのだ。
人を好きになるのに、大した理由はいらないということでもある。
彼女の想いのあり方に納得する俺だった。
そこで、ふと疑問が湧く。
「だったら最初に会った時、俺の何を見て受け入れたんだ?」
「お顔が好みでした。黒髪黒目、素敵です」
「おい!」
「うふふ、冗談です。これまで悪意を持った人達を沢山見てきたのです。スキルなんか使わなくても、私は人を見る目がありますよ?」
それを聞いて納得すると同時に感心した。
彼女はスキルにばかり頼って、人を判断する人間ではないのだと。
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