第十九話 湿地帯の狩り
次の日。空を飛んで湿地帯に到着。
あっさりしたものである。
それまでの準備が大変だったので、そうでなくては困るが。
戦闘においてもウインド・ステアーは大活躍だった。
空という安全な場所から、これまでよりも更に、一方的な攻撃が行えるのだ。
新たな強敵を前に苦戦?
しないよ?
そんなの、したくない。
その為の事前準備である。
「当初の予定通りの戦い方。いけるな!」
俺は相手に実力を発揮させないで、蹂躙していくスタイルを築き上げていく。
レベル60台のヒドラも、大きな的でしかない。
上空からのバースト・ランス連発で、何もさせぬまま、細かい肉片へと姿を変えてやった。
多頭の巨大蛇であるヒドラは、皮とか内臓で使える部分が沢山あるそうなのだが、これだけ損傷が激しいと回収は無理である。
無事だった牙の部分だけでも回収しておく事にした。
日本人的、勿体ない精神というか、巨大敵のドロップ品に目が眩んだのもある。
そして後悔した。
「だから……電子のキャラクターではなく生き物なわけで。くっさ!」
肉食生物の口臭が付着していて匂いがきつい。血や肉片も少なからず付着している。
さっくりレア素材を剥ぎ取って取得とはいかなかった。
ここで活躍したのが、攻撃には向かないと思っていた水魔法。
強力な水流で洗ってきれいにする。悪臭も薄れた気がする。
鼻が馬鹿になった可能性もあるが。
五本首のヒドラだったので、それだけでも、かなりの量になった。
最も値打ちがある部分でもあるので、売ればそこそこの値段になるだろう。
湿地帯の魔物は、レベルが二十台後半のものばかりで数が多かった。
その代表がリザードマンである。
青竜刀のような武器と丸い盾を持った、トカゲ人間だ。
硬い鱗と素早い身のこなし、そして集団戦が得意と、魔物だが一流の戦士でもある。
地上でまともに相手をしたら、苦戦したであろう相手だ。
だが、空中の俺に対する有効な攻撃手段を持たないリザードマン。
弓矢や投げナイフも風の守りの前には無意味。
集団で現れたとしても何ら脅威ではなかった。
空からの爆撃で一匹残らず殲滅してやった。
「もうボーナスキャラにしか見えないな」
リザードマンも素材となる部位は多いのだが、当然これも回収は無理な状態である。
出来の良い武器だけ集めて、まとめて岩場の陰に隠しておく。帰る時に回収する。
そういえば、魔物の武具はどこで調達しているのか? と疑問に思ったのだが、壊滅させた集落に鍜治場みたいなのもあったので、謎は直ぐに解決した。
今迄も気づいていなかっただけで、ゴブリンやオーク等の集落にもあったのだろう。
獲得創力もヒドラは七万以上。
リザードマンも一匹で三万弱とかなりのものだった。
というわけで俺は、遺跡の件は一先ずおいといて、狩りを続けていた。
因みに、今日の俺の服装はいつもと違う。
皮鎧の上から、魔術師が着るような黒いローブを纏っていた。
理由はある。別に、お洒落に目覚めたわけではない。
誰かに空を飛んでいるところを見られても、俺だと分からないようにするためである。
だから今の俺は、ローブについているフードを深く被り、顔を隠していた。
因みにこのローブは、ラセリアから借りたものである。本人は差し上げますと言っていた。
顔や体型を隠せるような服が無いか聞いたら、ニコニコ笑顔でこれを渡されたのだ。
ラセリアと、お揃いの色というのも気恥ずかしかったので、他の色がないか聞いた。
だが、彼女は黒以外の服を持っていなかった。
一着も、である。
え? と思わず声を漏らしたら、何か文句がありますか? と笑顔のまま言われた。
怖かった。
というわけで、ありがたく、黒いローブをお借りしたのである。
カラーリングに文句などあろう筈がない。
それともう一つ、ラセリアに手渡されたものがある。
俺の左腕で鈍色に輝く腕輪だ。彼女が冒険者時代に手に入れた品らしい。
隠者の腕輪という名の、マジック・アイテムである。
これを身に付けていれば【隠蔽:L3】の効果があるとのことだ。
隠蔽スキルを持ってる自分には、必要ない物なので差し上げます、と言って渡された。
スキルの力が籠められたアイテムというのは、高価で貴重なものである。居候している身で、そんな物まで貰ってはとも思ったが、ここは遠慮せずに頂いておいた。
個人情報を垂れ流しの状態で、活動を続ける勇気なんて俺にはないからである。
恩は後で返せばいい。
それにしても、嬉しいプレゼントではあるのだが、パラメーターを爆上げした次の日にというのは、タイミングが良すぎる気がする。
ラセリアは俺の能力を、こっそり見たのかもしれない。
いや、この考え方は失礼か。彼女が隠れて俺の能力を覗くとは思えない。
見たのだとしたら、不可抗力で見えたと考えるべきだ。
彼女は常時発動型の看破系スキルを持っているのかも。
彼女になら能力を見られても困るようなことはないので、構わないが。
ああ、でも単純に、そろそろレベルが結構上がっただろうからと、プレゼントしてくれただけかもしれない。ほんとに偶然ってやつだ。
うん。それが一番可能性が高いかもしれない。
「……人を疑う癖は治らんね。治す気も無いけど」
何にせよ【隠蔽:L3】というのは大きい。
他人の能力を覗くスキルには【看破】の他にも【鑑定】や【真眼】など、様々なものが存在するそうだ。
そして、そういう系統のスキルは、技能レベルが5までしかないという特徴があった。
レベル5で性能がマックスになると考えれば、悪くない特徴だ。
とか思ったら、大間違いである。
なんと限界レベル5のスキルは、限界レベル10のスキルより、レベル上げに遥かな時間と才能を要するのだとか。
生きている内に、レベル5まで上げられる人間は、殆どいない。とラセリアは言っていた。
熟練の狩人、ミゲルさんの【看破】レベル4は、相当すごいのである。
列強種族だろうが英雄クラスだろうが、どんなに頑張っても、この系統の技能レベルは3止まりが普通。
魔眼を扱う特別な才能があって、初めて、その上を目指せるのである。
なので【隠蔽:L3】の効果を持つ、隠者の腕輪があれば、大抵の看破系スキルを防ぐことが出来るのだ。
そんな正体不明の飛行物体となった俺は、湿地帯で目につく獲物を殲滅していった。
リザードマンの集団を、見付けては潰し、見付けては潰しを繰り返す。
その結果、付近の光点が無くなる頃には、創力は三百五十万を超えていた。
強さを得て狩りが効率的になった事で、先日使った分の創力を直ぐさま回収出来たのである。
そして気付ば、ミゲルさんの言っていた例の遺跡の近く。
マップで確認。周辺に敵影はない。人間を表す光点もない。
「誰にも邪魔されずに、じっくりと調べられるな」
その前に創力で自分を強化することにした。
無駄に創力を貯め込むよりも、強くなって殲滅効率を上げた方が稼げる。というのが分かったからである。
前回一遍に肉体レベルを百上げてしまったので、あと一ヶ月経たないと、そちらのレベルは上げられない。
なので今回はスキルレベルを上げていく。
まずは【開拓の標】と【身体強創】のレベルを5へと上げる。
技能レベルを4から5へと上げるには、創力が百二十八万が必要で、それが二つ。
合計二百五十六万の創力を使用。残りの創力は百万弱になる。
技能レベルを5から6に持って行くには、創力が五百十二万も必要だ。なので、この二つのスキルは暫くは、このままである。
最後に創力四十二万を使い【耐性強創】の技能レベルを4にする。
状態異常は、なってからでは遅い。余裕があるときに上げておく。
創力を五十万ちょい残しで強化終了。
能力はこんな感じに。
[レベル]150
[名前] 久世覚(サトル=クゼ)
[種族] 人間
[性別] 男
[年齢] 20
[職業] 狩人
[生命力]5608/1610 [×3.5]=5635
[魔力] 5/5
[創力] 506440
[筋力] 165 [×3.5]=577
[耐久力]160 [×3.5]=560
[精神力]164 [×3.5]=574
[抵抗力]156 [×3.5]=546
[俊敏] 162 [×3.5]=567
[器用度]159 [×3.5]=556
[技能] 【共通語】【可視化】
[固有技能]【豊穣の理】【生贄選定】【創力進化】【開拓の標:L5】【創力変換】
【円形祭壇】【記憶の創成】【身体強創:L5】【耐性強創:L4】
スキルの影響で生命力と能力値が若干上がった。
創力を約三百万も注ぎ込んだ割に、前回ほどの劇的な変化はないが、これで十分である。
「楽しみにしているのは、こっちの方だからな。さーて【開拓の標】がどう変化したのか、調べてみますかね」
スキルに意識を集中して理解する。
「んーと、Z軸の把握が出来るようになったのか。おお、3Dマップに切り替えられる!」
Z軸とは奥行きや高さのこと。
つまり、空や地下の情報を、映し出せるようになったのである。
それに伴い平面地図から、ワイヤーフレームで描画された三次元映像に、任意で切り替えられるようになった。
ダンジョン探索などで、絶大な効果を発揮する機能である。
「そんじゃ、この機能も使いつつ、神殿跡をくまなく調べて見ようか」
それ程広くはなかったので直ぐに調べ終わった。
何もなかった。
少し期待していた、地下の隠された空間なんてものもなく、本当に何もないところであった。
ミゲルさんの言ったとおり、存在するのは折れた柱と石畳だけ。
情報を辿れるような文字や壁画も見付からない。
何の目的で建てられていたのかも分からない。そんな遺跡跡であった。
「ここがハズレなのか、それとも全部の遺跡がこうなのか……」
取り敢えず、ミゲルさんに教えて貰った場所を全部調べてからだ。
それで何も見付からなかったら、そこで改めて考えよう。
別に何も無くても困る事があるわけでもない。
漠然と狩りをするのもなんだから、暇潰しに調べているだけだ。
少なくとも今は。
ゆっくりと調査は進めていこうと思う。
ということで、今日はもういい時間なので、帰ることにした。
持ち帰ったリザードマンの武器は、ミゲルさんに預けた。
その量に驚いてはいたが、どうやって手に入れたのかは特に何も聞いてこない。
商隊が来た時にでも換金しといてくれるそうだ。
お世話になっているので、そのお金は差し上げますと言ったのだが断られた。
村の外に出た時の資金にしておけとのことである。
近い内に、そんな日が来るのだろうか?
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