第十八話 空を自由に
オークの数も大分少なくなってきた。
勿論、俺が狩りまくったからである。
というか滅ぼすつもりでやった。後悔はしていない。
森の全土に生息しているので、流石に絶滅は不可能だったが、この周辺でのみなら近い事は出来た筈だ。
そしてトロールの数は元々少ない。
つまり、ここで創力を稼ぐには、効率が悪くなってきたのである。
「ちっ、湿地帯なんて歩きたくないんだがな。奥に行くしかないか」
ついでに遺跡について調べるのも良いかもしれない。
ミルキィと何かあった時の、交渉材料になるかもしれないからだ。
しかし、幾ら何でも準備も無しに行くのは無謀である。
奥に行くとしても明日以降だ。
ミゲルさんに教えて貰った遺跡がある場所は遠い。
一番近いところでも、俺の足では辿り着くのに、片道で二日は掛かる距離なのである。
レベルが上がって移動速度も上昇した。
体力に任せて休まず進むことも出来る。
それを踏まえての日数だ。とてもではないが行く気はしない。
そこで新たな魔法の出番である。
「最初に掛けるのは、ウインド・コート」
風の魔法を発動。体表面を圧縮された空気の膜が覆う。
所謂、風の鎧である。
オーク程度の振るう剣や槍なら、完全に防ぐことが出来る。
森の中だと臭い消しや虫除けにもなる、割と重要な副次効果付きだ。
飛び道具や、死角からの不意打ちにも対応出来るが、余りにも威力の高い攻撃だと、弾けて消えてしまうので注意が必要である。
だが、そこも工夫している。消失の際に圧縮された空気を周囲に放ち、暴風で吹き飛ばすようになっている。次の障壁を張るまでの時間稼ぎにもなるのだ。
不可視であり、攻撃に反応するまでは、見た目全く分からない。常時使用も出来る、利便性も追求した障壁である。
初期の頃から考えていたものが、最近になってやっと形になった魔法だ。
本当に苦労した。自分の動きを妨げないように構成するというのが難しかった。
何度、暴走した風で宙を舞った事か。
けれど、その経験が付与系の魔法を鍛える事にもなった。だから、今は良い思い出。そうしておく。
さて防御も大切だが、大抵の人は風を自由に扱えるとして、何をしようと思うだろうか?
捻くれた考えをしなければアレだと思う。
俺も最初に考え付いたのは、次の魔法なのである。
飛行魔法だ。
「これを使いこなせるようになるのが、今日の目標だな。ウインド・ステアー」
風の魔法を発動した後に、俺はその場でジャンプする。
垂直に跳んだら、普通ならば、後は重力に従って落下するのみ。
しかし、そうはならなかった。俺の身体は空中で静止する。
そう、これがウインド・ステアーの効果である。
原理は単純。足元に、空気を固めた足場を創り出しただけ。
一度発動すれば、後は術者の意志に従い、自動で連続発動するようにしてある。
なので足場を作るのに一々術名を唱えなくても良い。
これにより空へと駆け上がり、自由に移動が出来るようになった。
その際に、足場の圧縮された空気を解放し、推進力に変えて、勢い良く飛ぶことも可能だ。
空気圧を使った高速飛行の魔法。それがウインド・ステアーである。
実は纏った風そのものを推進力に飛行する、フライという魔法も考えた。
「とんだ失敗作だった。名前なんて登録しなければよかった」
だが、一度だけ試して直ぐに封印した。
毎秒で消費される創力の量が大きい上に、動きに瞬発性がなかったからである。
あと、常に激しい風の音が耳に入って来るので、喧しいといったらなかった。
簡単なイメージで創れて、実際空も飛べたので、よく検証もせず安易に名前を付けてしまったのだ。
「今後はこういった事が無いように、フライの名は戒めとしておこう」
故に俺が使う飛行魔法といったら、ウインド・ステアーになるのである。
直前に発動したウインド・コートは、不意の攻撃や落下事故に備えてのものだ。
高速移動の際の風よけと、高所での寒さ対策にもなる。
この魔法を使えば、遺跡がある場所でも、日帰りで行けるようになるだろう。
早速、森の上を飛び回って身体を術に慣らす。
「空を自由に飛べるってのは、やっぱ心にくるものがあるな!」
初めて見る空からの景色と、重力からの解放に感動しながら、問題がないか確かめていく。
上下左右に移動。急制動での身体への影響。高速移動から着地の衝撃。
浮かれていたのは最初だけ、危険な運用方法も含めて検証していく。
本来人間の体は、空で活動できるように設計されていない。
どれだけ検証と訓練を重ねても、足りないなんて事は無い。
じっくり時間を掛けて何度も繰り返す。
「高速移動時の急な方向転換では、身体のバランスを取るのが難しいか。けどまあ、一日練習すれば、なんとかなりそうだな」
四百を超える器用度が影響しているのだと思われる。決して簡単ではない制御も、数度試すだけで、ものに出来る確信があった。
ウインド・コートの消費創力は五で、何の衝撃も受けなければ二時間は保つ。
ウインド・ステアーは足場を一つ生み出すのに、創力を一も使わない。二つで創力を一消費と、かなり燃費が良い。
両方共に低燃費で気軽に使っていける魔法だ。
妥協せず時間を掛けて創り出した甲斐があったというものである。
この調子なら、明日からでも遺跡巡りが出来るだろう。
既に俺の頭の中は、新たな獲物をどう仕留めるかで一杯であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます