創力使い ~相手に何もさせずに蹂躙したい~

無印凡人

緑禍の聖殿

第一話 決別のプロローグ

 法では裁けない悪がいる。


 法の目をかいくぐる狡猾な者。法をねじ曲げる権力を持った者。

 何時の世にも消えることのない人間の屑達である。

 そして現在、俺の目の前にいるのは、とある政治家の息子だった。

 こいつは、これまで数え切れない罪を犯し、それらを全て親に揉み消して貰っているような人間だった。

 つまり最低最悪の屑である。

 そんな屑の腹からは血が流れていた。

 そうしたのは俺なのだが。

「ひぎっ!?、いてぇっっ、う、っぐぅ~! な、なにしやがんだよクソが! お、俺にこんな事をしてタダで済むと思ってんのかよコラァ!!」

「……」

 何故こいつは、この状況でこんなにも強気でいられるのだろうか?

 奴が血を流す原因となったサバイバルナイフを手に、冷めた心で考える。

 ここは都市部の外れにある、とある廃屋の一室。

 この腹から血を流している男が、隠れ家に使っている場所である。

 家主の趣味か、あるいは単純にデザインが好みだったのか、訳の分からん言語や模様が刻まれた指輪や首飾りにタペストリー等々。オカルトな小物で飾り付けられた、怪しげな雰囲気の部屋。

 もっと正確に言うのなら、この男が攫ってきた女を連れ込む無法の監禁場所だ。

 俺は長い時をかけて、この男の情報を調べ上げた。

 過去の犯罪歴。家族情報に友好関係。趣味嗜好に生活パターンも全て。

 この男を確実に殺すためにである。

 失敗は許されない。張り込みを続けて、確実に始末出来る機会を待っていた。

 目前の獲物、逸る気持ちを抑えて辛抱強く。そうして、その時が、今日訪れたのである。

 攫ってきた女が相当に好みだったらしい。一人で楽しみたいと仲間を帰らせたのだ。

 仲間達も、男のおいしいところの独り占めに不満があったようだが、絶大な親の力をチラつかせる男に文句を言える者はおらず、渋々と全員帰って行った。

 救えぬクズの中で更に傲慢に振る舞う、その姿に、俺の心に暗い喜びが生まれる。

 俺の行う事の正しさを証明してくれると。

 待ちに待った男が一人きりの瞬間。千載一遇のチャンス。

 この瞬間だけは信じてもいない神に感謝した。

 俺は男が事に及ぼうとしていたところに乱入。

 扉を開けた音でこちらに気づいたのか、半裸で驚き首だけ振り向く男に向かって、サバイバルナイフを突き立てる。

 背中の肩甲骨辺りに命中。男は情けない悲鳴を上げベッドから転がり落ちた。

 その際に拘束を逃れた女に、俺は黙って出口へと首を振ると、意図を察して悲鳴を抑えながら走って逃げていった。

 女に用はない。用があるのは、目の前のこいつ唯一人である。

「っぐ、な、なんなんだよてめぇはよっ!? あ? いてぇじゃねぇか! くそくそくそくそ! なんとかいえよこらぁっ!」

「はぁ……」

 語彙の少なさよ。あまりにも頭の悪い言葉遣いに、まともに会話する気も起きず溜息で返す。

「お前っ、絶対ぶっころす! 絶対死なす! 親父に頼んでてめえの親兄弟も含めて地獄見せてやんぞ! アアッ!」

「……」

 刺された割には元気が良い。暴れる女を押さえ付けるため激しく動いていたせいで、ナイフの刺さりが浅くなったようだ。致命傷には程遠い。しかし軽傷でもない。

 痛みと、いきなり刺されたショックで、尻餅をついたまま立ち上がれないようだ。

 出口は俺の後ろにある扉のみ。これなら逃げられる心配も無いだろう。

 後は油断して窮鼠猫を噛まれる心配か?

 怪我をした半裸の男に不覚を取る程、俺も柔ではない。

 不本意ながらこいつらに人生を狂わされて、嫌という程荒事の経験は積んできている。

「黙ってんじゃねぇ! 俺の親父は民寿党の端中雪朗はたなかゆきろうだぞっ、議員だぞっ、今更びびっても遅えんだからな! わかってんのかこら、あん?」

「……」

 勿論よく知っているが、俺は黙ったまま、男の顔を観察する。

 この三年間、一時たりともこの顔を忘れたことはない。だが、これほど近くで、じっくりと顔を見るのは初めてだったからだ。

 染められた似合っていない金髪と、耳には馬鹿みたいな数のピアス。これまでの生き様が現れている、品性の欠片もない言葉遣い。

 窃盗に傷害事件は数知れず、強姦殺人まで経験済みの前科0犯。ふざけた存在である。

 親の力で、事件の揉み消しなんか当たり前の人生を送る屑。

 これで俺より年上の成人だというのだから恐れ入る。

 こいつが妹を――――。

「何かしゃべれっつってんだろうがよ! てめぇマジで殺すぞクソガキがぁっ!!」

「俺のことを……覚えているか?」

「はぁ? 何いってんだよ!? てめぇなんざしらねぇよ!」

「だろうな。三年前に仲間と一緒に集団リンチした男の事なんて、お前が覚えてるわけがないよな?」

 不意打ちだった。いきなり後ろから硬い物で殴られて、昏倒したところを袋叩きである。

 それにより俺は全治三ヶ月の大怪我を負った。

「ったりめぇだろうがっ。そんな細けぇこと一々覚えてる訳ねぇだろ!」

 別に、その残念なおつむに、俺のことが記憶されているなんて期待はしていない。それにその事はもうどうでもいい。

 気にしてはいない。

 本当だ。

 何故なら、それ以上の出来事があったからだ。

「じゃあ、その時一緒にいた男の妹を連れ去り、散々陵辱の限りを尽くして、最後には殺した事とかも覚えていないのか?」

 流石に、このことは覚えているだろう?

「あぁん? はっ!? あ、あの時のか!? お前、あの女の兄貴か!?」

「お前が他にも同じようなことしてなければ、な」

 俺が調べた限りだと、殺人は妹の件だけの筈だ。

 俺の正体が分かって驚きに目を見開く男。

「ふ、復讐、かよ?」

「馬鹿か? それ以外に何がある? ま、そんなわけなんで覚悟は良いか? 別になくても良いが。やることは変わらんしな」

 殺してやるよ。

 言葉にしなくても目で伝わったのか。

「ざけんな! 何で俺が殺されないといけねぇんだよ! 馬鹿かてめぇは、お前が死ねよ!! 死ね死ね、今すぐ死ね!」

 ナイフを構えて近付く俺に、後退りながら男は愉快な戯言を喚き散らす。

「ふざけているのはお前だ。何でだと? お前が妹を殺したからだ」

 因果応報。自分は良くて相手は駄目とか通じる訳がない。

「ぅるっせぇ! 何で女一人のために俺が殺されないといけねぇんだよ! そんなのありえねぇだろうが! そこいらにいるようなカスみてぇな女と俺じゃあ、価値が違うんだよ!」

「……」

 なんの罪もない妹を、己の欲望で理不尽に殺しておいて、この言い様か。

 だが、価値が違うというのは同感だ。

 お前には、妹の百万分の一の価値もない。

「よーく分ったよ。お前に生きている価値はない、ってことがな」

「ひ、くるな!」

 俺は仇の命を刈り取れる距離へ、ゆっくりと歩を進めていく。

 ナイフを落とさぬよう、奪われぬように、確りと握りしめて一歩一歩。

 絶対に逃がさぬように。

 決して躊躇わぬように。

 殺意を研ぎ澄ましながら距離を詰めていく。

 そんな俺が近付くにつれ、男の顔からは先程までの強気な表情は消えていく。

 代わりに浮かぶのは恐怖に歪むそれ。

 ああ、もっとその顔を見せてくれ。

「あはは」

「ひぃい!?」

 自然とこぼれた笑み。そんな俺に何を見たのかは知らないが、男の顔が更に歪む。

「……」

「あ、あ、来るな、来るなーーーー!!」

 近くにある雑誌や空き缶を投げながら、男は何度も来るなと叫ぶ。

 当然そんなもので俺の足は止まらない。

 俺が進む度に、少しでも離れようと男も後退るが、もう後ろには壁しかない。

 あと少しでナイフの届く距離。

「ああああああああっ! どっけぇ!」

 すると、これ以上は逃げられないと見た男が突っ込んできた。

 俺を突き飛ばして、部屋の出口へと向かおうとしたのだろうが、想定済みである。

「ふん」

 慌てることもなく対応。その、だらしない腹に前蹴りを放つ。

「げぼぉ!?」

 無様な悲鳴と共に、仰向けに倒れる男。そこへ馬乗りになって動きを封じる。

「げほ、うぐ、くそ、くそ! どけぇ!」

 下から力の入らないパンチを放ってくるが、そんなもので俺がどうにかなるはずもない。

「ほらほら、暴れるな。優しく、じっくりと殺してやるから、大人しくしてろ。な?」

 そう言って俺はナイフの柄で男の顔を殴る。

「ぐぎゃっ!? てめぇ、こんなことして――」

 俺が優しく言っているのに大人しくはならない。まだ威勢が良い。だったら仕方がない。

 自分の顔を庇おうとする男の手を払いのけながら、更にナイフの柄を叩き付ける。

「ぐ、あぐ、ぎひゃ」

「あっはっは。良い声で鳴くじゃないか」

 胸の奥に溜まった黒い衝動のまま、何度も何度も殴りつける。

 歯が折れ、鼻が潰れ、皮膚が裂けて血が飛び散る。

 男の顔は、あっと言う間に見るも無惨な形になった。

 しかし、心は一切痛まない。

 痛むわけがない。

「ごっ、うぶっ、ひぃぃ、あぐぅ、もう、やめて――」

「お前に理不尽な暴力を振るわれた人達も、同じ事を言っていたと思うが? お前は、その人達の願いを聞いたことがあるのか? ないだろ?」

 実に陳腐な台詞だが、言っておかねばなるまい。

「そ、それは……」

 このように男には言い返せないのだから。

「じゃあ、何されても仕方がないよな?」

 だから俺が止めるわけがない。

「ひ、ひ――あがっ!」

 何度も何度も何度も、殺してしまわないように気を付けながら殴り続ける。

「ゆ――ゆる、し――くだ、ひゃ、ぃ――

「うんダメ」

「そん!? あぎゃ! げばっ――」

 そうやって五分程殴り続けただろうか。男の声が止んだ。

 別に死んだり気絶したわけではない。とうとう男の心が根本から折れたのだ。

「もう少し頑張って抵抗しろよ。憎らしいことを言ってみろよ。嬲りがいのない奴だな」

「――――っ――――ひっ」

 最初の時の威勢の良さは完全に無い。今はもう、俺の声にもビクリと震えるだけである。

 散々暴力を振るってきたであろうに、暴力を振るわれるのは馴れていないらしい。

 本当にどうしようもない小物だ。

 こんな奴のために、どれだけの人間が犠牲になったのだろうか?

 復讐に正当性があるなんて言わないし、そんな事を議論をするつもりもない。

 憎しみの連鎖を断ち切るのも勇気だとか、法の裁きを受けさせるべきだという意見を否定するつもりもない。

 そいつらはそいつらで、そうすればいい。俺の場合は違うというだけだ。

 世の中には生きていてはいけない人間がいる。それを知っているからだ。

 断言する。こいつは間違い無くそれだ。

 所詮、善悪なんてものは、人間が作った法律を遵守するかどうかの話である。

 そう言った意味では、こいつは悪では無い。

 何せ法で悪だと裁かれないのだから。

 だが逆に、人間社会のルールが正しく適用されないのなら、それはもう人間ではないともいえる。モラルのない獣、いや害虫か。

 獣にだって独自の社会性はあり、それを守っている。ならば、こいつは獣にも劣る。

 だから俺は躊躇わない。

 この男を駆除すれば、確実に世の中の憂いが一つ減る。

 新たな犠牲者は出なくなるし、天国の妹も喜ぶ。

 復讐は何も生まないだなんて、おめでたい考えをする子じゃなかったしな。

「じゃあ、始めるか。お前という存在を――蹂躙してやるよ」

 ナイフを逆手に持ち替えて、まずは男の右肩付け根を狙って振り下ろす。

「ぎゃぁああっ!?」

 流石にこれには悲鳴を上げて暴れる男を抑え付けたまま、次に左肩の付け根に突き刺す。

「ひぎぃいいいっ!!」

 男の両腕を使えなくする。これで万が一の抵抗もないだろう。

「気合いを入れろよ? ここからが本番なんだからな」

 顎を掴んで顔を固定し、ナイフを横に一閃。両の眼球を切り裂き光を奪う。

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」

 ばたばたと股下で暴れる男に構わず、次は左耳を切り落とす。

「うぎぃ!?」

 俺の声が聞こえるように右耳は残しておいてやる。

「あぎゃあっ! あ、あ、だ、だずげで、だずげでぐだざい」

「あっはっはっはっは。面白いことを言うね。助ける訳がないだろうに」

「ごめんなしゃいごめんなしゃい、あやまりますから、これからは心を入れ替えますからっ、だから、だからっ、命だけは――」

「アホか。お前が改心したところで妹は帰ってこないし、俺に何の得もないわ。というかお前の罪は、そんな事で償えるもんじゃないだろうが。お前に出来る事は、地獄の責め苦を味わいながら死んでいく事だけだ」

 感謝しろ。その手伝いはしてやる。

「しょ、しょんなぁ!」

「んじゃー次は、指先から肘くらいまでを、順に解体していこうか」

 これからやることを宣言する。

「ひぃいいい、やめ、やめで、あがが、ぎゃああああああ!!」

 直ぐに死んでしまわないように、丁寧に刺す、切る、削ぐ、抉る。

 右腕が終わったら左腕。両腕が終わったら、今度は足の方を。

 我ながら、とても猟奇的な光景だ。

 普段の自分が、この光景を見たら吐いているかもしれない。

 正直自分も、ここまで冷静に、人体の破壊をしていられることに驚いている。

 限界を超えた怒りや憎しみは、心を激しく燃やすのではなく、冷たく凍り付かせるらしい。

 ガリ、ゴリ、ゴツリと、時には骨を絶つのに苦労しながら、男の奏でる悲鳴をBGMに作業を進めていく。

 途中ナイフを、予備で持ってきた物と交換する。

 血油と硬い物を切ったせいで、ナイフの切れ味が落ちてきたからだ。

 それだけ刃を振るったともいえる。

 新しいナイフで作業を再開。皮や肉も削いでいく。

「この辺が限界か。よくショック死しなかったもんだ。それは褒めてやるよ」

 返り血に染まった俺の目の前にあるのは、元より一回り小さくなった肉の塊。

 わずかに胸が上下しているので、まだ生きてはいる。とはいえ、この傷と出血では、もう絶対に助からない。

「――ごぼ――ごろじで――ぐ――」

 肉塊が血に喉を詰まらせながら喋る。

 恐らく、一思いに殺してくれと懇願しているのだろう。

「断る。そのまま醜く、苦しみの中でゆっくりと死んでいけ」

 当然、こいつの願いなど聞いてやるつもりはない。

「――――」

 返ってくる言葉はない。絶望したのか余力がないのか。どちらでもいい。

 血の臭いがむせ返る部屋の中で、俺は黙ってその時を待つ。

 何度目かの死に向かう呻き声の後。

 ついに肉塊は動かなくなった。

 俺の復讐は果たされたのだ。

 久瀬覚くぜさとるは妹の仇を討ったのである。

「やったよ……裕子」

 妹の名を呼び、暫しの黙祷を捧げる。

 これで俺は立派な殺人犯となったわけだが、何の後悔もない。

「さてと、これからどうするかな。素直に出頭するか、ダメ元でこいつの親をターゲットに、もう一暴れしてみるか?」

 男の親、端中雪朗の方は、俺の両親の死に関わっている。

 妹が殺され、俺が入院している時の事だ。

 男が逮捕されないなんて、そんな馬鹿な話があるかと、両親が端中雪朗の元へと乗り込んだのである。

 俺も病院で意識を失っていなければ、そうしただろう。

 そこで、あらゆる手段を使って、事件を明らかにすると息巻く両親。

 それが明らかになれば議員生命に関わる。何とか隠蔽したい端中雪朗。

 だが事件の揉み消しにも限度がある。

 まして殺人事件に至っては議員様とはいえ、そう簡単に消し去る事は出来ない。

 では、どうするのか? いや、端中雪朗はどうしたのかというべきか。

 元秘書の証言で後から知ったことだが、両親の目の前に大金を積み、事故として処理をするから騒ぐな、でないと不幸な人間が増えるぞ、と脅したそうである。

 両親は当然、そんな金も要求もはね除けた。

 そして、両親の乗った車は『居眠り運転とされている』トラックに追突され、橋架下に突き落とされたのである。

 車は大破。二人は即死だった。

 事故に見せかけて殺されたのは、明らかであった。

 もっとも、証拠なんて一つも残っていなかったのだが。

 大金を受け取っていたであろうトラックの運転手も獄中死していた。

 死因は心不全。つまり原因不明。口封じに殺されたわけである。

 俺は通っていた学校を辞め、復讐の為に三年間、端中家の情報を集められるだけ集めた。

 親の残した遺産も全て、興信所と調査費用に消えていった。

 そして数々の汚職の証拠を手に入れた。俺が何もしなければ、自動的にネット上へと流れるように細工もしている。

 だが、それが致命打になるとは思えないのだ。

 所詮は十代のガキと、民間の調査機関が集めた情報である。

 ちょっとだけ世間を賑わせて終わり、というのが目に見えていた。

 だからといって直接手を下すのも難しいだろう。

 腐っても議員。警護も厳重で襲えるような隙がない。

 この親こそが元凶といっても過言ではないのだが、俺にそれを誅する力はないのだ。

「悔しいが、親の方への復讐は諦めるしかないのか……いや、足掻けるだけ足掻くべきだな」

 取り敢えず、これからどうするのかは後で考えることにする。

 最初に逃げた女が通報している可能性もあるので、そろそろ警察が来るかもしれないからだ。

 こういった被害にあった女性は、もう関わり合いたくない、大事にしたくないという理由で泣き寝入りする事も多い。

 だから警察が来る確率は半々なのだが、逃げるのなら早い方がいいだろう。

「逃げられるだけ逃げてみるか」

 それでも、今はこの達成感にゆっくりと身を浸していたい。

 実に晴れ晴れとした気分だった。

 復讐なんてしても失った人は戻ってこない。誰が最初に言ったのやら。

 間違ってはいないが、分かってもいない。

 命を取り戻せないからこそ、奪われた尊厳を取り戻すのだ。

 心地よい虚脱感。穏やかな心。そんな状態で何となく部屋の中を見渡す。

 血だまりの床に、周囲に飛び散った血がオカルトな小物にも大量に付着しているせいで、生贄の儀式かのようだ。

 そして。

「犠牲となった者達に捧げる――なんてな」

 と、呟くのであった。

 本当に何となくで口にしたことだった。

 あんな屑の残骸でも、何かの足しにならないかと思って出た言葉である。

 実際に、この言葉が切っ掛けだったのかは分からない。

 だがその瞬間に、下から沸き上がった眩い光が、俺を包んだ。

「一体っ――何が!?」

 あっと言う間に視界が真っ白に染まる。

 次いで上下の感覚の喪失。

 まるで何処か遠くへと飛ばされるような浮遊感。


 そんな感覚を味わいながら、俺の意識は途切れるのであった。

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