第8話 ノストという国
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ノスト国立学校 13~14歳クラスにおける教師の発言記録
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「魔力という言葉を知っている人、手を上げてください。
もちろん全員、知ってますね。じゃあ次は
みんなの周りで魔力を持っている人を知っていますか?
手を上げているのは2人だけですね。
どのようなお仕事をされている人達ですか?
なるほど、風力発電所の魔法電気技師と軍の魔法部隊の兵士ですね。
皆さん、分かりますか?
このクラスには30人の生徒がいて、それぞれ身近な人が
たくさんいるのに魔力を持っている人は2人しかいません。
いわゆる魔法と呼ばれる物は、魔力がないと覚えることも発動も出来ません。
ですが、魔力が宿った状態で産まれてくる人は以外と少ないのです。
確率で言うと10人に1人くらいになります。
魔力とは、この世に産まれ出た瞬間に目覚めた人だけが
先天的に持っている能力です。
努力や訓練で後天的に手に入れる事は絶対に出来ません。
だから魔法が使える人は特別な存在です。
魔法を操れる人は、ほぼ全員が軍関係か国の重要施設で働きます。」
「次は科学の話をしましょう。
この教室にある科学の製品は何か分かりますか?
そうです。天井に設置されている電球を使った照明ですね。
そして、それを光らせている電気と呼ばれる物です。
風の力を大きく増幅させて電気エネルギーに変える発電所。
発生した電気を安定させる制御装置。
それを国の各地に届かせる送電設備。
その電気で明かりを灯す電球。
電球を使った照明装置。
基礎理論の構築、施設の設計、設備や建築資材の研究開発、
製品開発に至るまで全てを考案したのが
100年前に亡くなったエミリア・グロウベルグです。
彼女の発明した科学技術で作られた機械のほとんどが
魔力を持つ人間にしか操作できないのです。
例えば、先ほど話に出た発電所の設備や装置は、
専門の電気制御魔法を習得していない人間が操作しようとしても、
機械は何も反応しません。
帝国と比べて魔法連合の科学技術は遅れていると言えます。
この国にある風力発電所も昔の帝国との同盟時代に
技術提供を受けて造られた施設です。」
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あるノスト人の日記より抜粋
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大陸歴 300年 5月20日
今日はノストで連合の代表会議が行われた。
朝から会場である大会議場周辺には多くの警備員が配置されており、
物々しい雰囲気に包まれていた。
その中をノスト、ウエスティア、イスタルの要人や関係者を乗せた
多数の自転力車が道路を走っていた。
道路の両端に設置された専用レーンには、いつものように
通勤、通学に向かう多くの普通の自転車が行き交っている。
噂では、帝国とノストの間で戦闘があり多数の死傷者が出たらしい。
明日には国民に向けた声明も発表されるだろう。
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大陸歴 300年 5月2日 ノストの大会議場の前で会話する二人の男女。
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「いつ見ても不思議な景色だと思わない?」
女が腕組みしながら男に問いかける。
「何がですか?」
男が答えると女が道路を指差した。
「この世界はある程度、科学技術が普及しているはずなのに
交通手段の乗り物として進化したのが自転車だけ・・・
あの道路を走っているのが自転力車って名前だったよね?
馬車の馬の部分が自転車になってるのね。おもしろい。」
「確かに面白いですね。でも、あれはかなりの発明品ですよ。
自転車そのものに複数の魔法が組み込まれていて魔力の無い人間でも
普通のよりも何倍もスピードが出せます。
牽引する力も強化されて1台で大きな荷車を引っ張る事が出来ます。
運転手の疲労も大幅に軽減される仕組みになっています。
これの開発によって、この世界の流通に革命が起きました。
今や帝国や魔法連合の3国の経済に欠かせない必需品です。
富裕層や運送企業が使う大出力の高級品から、
個人でも手を出せる手頃な価格の物まで揃ってますからね。」
たくさんの荷物を積んで道路を行き交う自転力車を見ながら男が言った。
「やけに詳しいじゃない。もしかして、何か関わっているの?」
「これは僕の好奇心でやらせてもらってる事ですよ。
《人為的に与えられた環境でどのように進化し、どのような社会を構築するのか》
という社会実験みたいなものです。
昔から外で捕まえてきたアリを家で飼育して観察するのが好きなんですよ。
それと同じです。」
男の発言に一瞬だけ侮蔑の視線を向けたが、すぐにそれを消し女が答える。
「あなたがこんな世界にしたのね。
あの人の邪魔にならなければ、何をしても自由だし好きにすればいいよ。
私もやりたいようにやるしね。」
そう言うと女は代表会議が行われている大会議場を見上げた。
「この世界って100年くらい戦争が続いてるのよね?
でも、街は平和に見えるし、物資が不足してる様子も無いし
人もあまり緊張感ないし、暗い顔をしてる人がいない。
何より侵略者である帝国に対しての怒りや憎悪を感じない。
すごい違和感があったんだけど、
これも誰かの思惑や意思が反映された結果って事ね。」
そう語る女の横顔を見ながら男は歩き出した。
「誰が何をやっているのか詳しい事は知らないですからね。
とりあえず今の所は、あの人の為に動きながらそれぞれ好きなことをやる。
それでいいのではないですか?
さあ、次の目的地はウエスティアですよ。行きましょう」
大会議場を眺めていた女は、大きく背伸びをした。
「そうね、余計な事を考えても仕方ないか・・・
これから面白い事がたくさん起きるからね。」
2人は街の出口に向かって歩いていった。
ソレスタル TADO @tado-ashi
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