第7話 暗中飛躍
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ノスト 議長室
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「エマ議長。エマ議長。」
誰かが自分を呼ぶ声にエマは、はっと我に返った。
そこには秘書がお茶を持って立っている。
「どうされましたか? お体の具合でも悪いのですか?」
心配そうに秘書が問いかけるとエマは答えた。
「大丈夫。少し疲れが出ただけよ。」
お茶を机に置いた秘書が続けて尋ねる。
「先ほどこの部屋を出ていったのは・・・確か・・」
「ノア調査官よ。少し彼の意見が聞きたくて呼んだのよ。」
「彼の事をかなり信頼している様に見えますが、
そういえば、ノア調査官のお父様とはお知り合いでしたね。」
「ええ、もう昔の事だけどある事件で私が窮地に陥った時、
彼の父親に助けてもらった事があるのよ。
その時の恩を今でも忘れてない。
でも、その事で彼を優遇しているわけではないわ。
優秀な調査官だから信頼してるのよ。」
そう言って笑顔を見せた議長を秘書が見つめる。
「それより議長、最近睡眠をしっかり取ってないのではありませんか?
一連の出来事の対応でお忙しいのは分かりますが、
無理をされては、体を壊してしまいます。
一度、先生に診てもらいましょう。
私、さっそく予約してきますね。」
秘書は慌てて部屋を出ていった。
「まったく彼女は・・・いつも思い立ったらすぐ行動なんだから・・・。」
エマは苦笑しながら鏡に写った自分を見た。
確かに睡眠不足で疲れた顔をしている。
秘書が部屋に入って来た事に気付かないくらい
疲労でぼうっとしていたらしい。
「そうね・・・ 一度先生に診てもらいましょうか。」
エマはお茶を飲みながら呟いた。
誰もいない部屋を見つけた秘書が中に入り、小型の機械に向かって話し始める。
「ええ、彼の話題を出しましたが、
特におかしな反応をしたり、動揺もありませんでした。
あの部分の記憶は消えています。
彼の父親の事も設定どうりに記憶されています。
問題ありません。」
それだけ話すとそれを上着のポケットにいれて部屋を出ていった。
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帝国某所にある建物の一室
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「私はエミリア・グロウベルグに血族がいる仮説を立てました。
皆さんにはその件について検討していただきました。
結果を聞かせてください。」
シーラ将軍は集めた3人の部下の前で資料を見ながら言った。
部下の一人が話し始める。
「まず、彼女に隠し子がいたとする説ですが、
シーラ様の知る歴史のとうり、エミリア・グロウベルグは生涯独身でした。
当時の公式記録もそうなっていますし、
民間の記事を見てもそういう噂話すらありませんでした。
妊娠していれば誰かが気付いたはずです。
魔法で体型の変化を隠していた可能性もゼロではないですが・・・
誰にも怪しまれずに何ヵ月も隠し通すのは
不可能と思われるので除外しました。
次に、表舞台に現れる13歳以前に出産した・・・ですが・・・
さすがに非現実すぎると思われるのでこれも除外しています。
彼女に隠し子がいたとする仮説は現時点では無理があると思います。」
続けて、2人目の部下が立ち上がり報告を読み上げた。
「次に、エミリアに兄弟や姉妹がいた説ですが、
これについては調べるのは困難です。
13歳までの彼女の記録が残されていないですから、
ただ、兄弟姉妹がいたのなら何か残っているはずです。
70歳で亡くなるまでの57年間でそのような痕跡は
何も見つかりませんでした。
やはり、兄弟姉妹がいたとする仮説も現時点では無理があると
言わざるをえないでしょう。」
シーラが深いため息をつきながら部下を見つめて尋ねる。
「しかし、それでは私達が目にした物の説明がつきません。
皆さんもあの会合の場に現れた女性を見たでしょう?
若い頃のエミリア・グロウベルグに似ていました。
生き写しと言ってもいいくらいです。」
2人の部下は顔を見合わせて黙りこんでいる。
シーラはあの時の事を思い返した。
「まさか、魔法でエミリアの外見に変えていた?
いいえ、ありえない。
それなら私が確実に気付く。そんな子供だましの手を見抜けないはずがない。
魔法で我々の視覚を操作してエミリアの姿に錯覚させた?
それもありえない。
転移魔法の赤い煙から出てきた瞬間からあの姿だった。
あの場の全員に魔法をかける時間はなかったはず。
彼女がたまたま、エミリアに似ていただけ?
それが一番ありえない。そんな奇跡的な偶然は起こらない。」
目を閉じて黙って考え込むシーラに3人目の部下が声をかけた。
「シーラ様、本題の血族関係から逸れるのですが・・・
一人の研究員がエミリア・グロウベルグについて
大きな発表があると宣言し、当時ちょっとした話題になりました。
覚えていらっしゃいますか? 10年前の事です。」
シーラは記憶を探りながら答える。
「ええ、思い出しました。確か発表の前日になって急に
<自分は間違っていた。>
と言い出して発表を取り止めたのではなかったかしら?」
「そうです。かなり名の知れた研究員だったのですが、
その後、不可解な言動や行動が目立つ様になり
研究所を自分から辞めています。
その人物が今、魔法連合に住んでいます。」
「連合で何をしているのですか?」
「物書きになって本を書いています。こちらですどうぞ。」
受け取ったシーラは数ページ読んで本を閉じた。
「これは・・・エミリアを主人公にした冒険小説ですね。
これが今回の件と関係があるのですか? 」
「この文章のここを見てください。」
部下がある部分を指差すと、それは見たシーラは目を見開いた。
< エミリアが好きなア○メは・・・ >
「これは・・・何かの言葉を意図的に隠してあるのですか?」
シーラの問い掛けに部下は、ある資料を見せた。
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こっちは予定通りです。それより演説の台本はもう出来ました?
細かい台詞を覚えてない? 全部、一緒にする必要ないですよ。
僕だってあんな昔のアニメの細かい設定は覚えてないですから。
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「これは黒ずくめの男が最初の襲撃の時に、
無線機らしき物で話していた内容です。最後を見てください。
アニメと言っています。言語学の専門家でも初めて聞く言葉らしいです。
ですが、この <ア○メ> は、アニメの事ではありませんか?
興奮気味に話す部下にシーラは本と資料を見比べながら言う。
「その可能性はありますね。ようやく手がかりらしき物が見つかりました。
でも、ただの推測でしかありません。
本人に確かめるのが一番ですが、連合に住んでいるのなら
軽率に会いに行くのは控えた方がいいですね。
合同調査チームの2回目の会合が開かれる時に、この人物を
呼んで話を聞けるように連合に要請します。
エミリアの血族に関する考察も引き続きお願いします。
どんな小さな事柄も報告してください。
今日はこれで解散とします。」
部下が出ていって一人になった部屋でシーラは例の小説を読み始めた。
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世界のどこかの某所
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机と椅子しか置いていない狭い部屋で、
黒ずくめの服に赤い仮面をつけた女が座って何かを書いている。
そこに、黒い仮面をつけた男が入って来た。
「どうですか? 台本は書けてますか?」
声をかけられた女は一枚の紙を男に渡す。
「ちょっとこれ読んでみてよ。例の演説の冒頭のセリフだけど、どう思う?」
受け取った紙を読んだ男は苦笑しながら質問した。
「戦争が嫌いだ。戦争が嫌いだ。戦争が大嫌いだ。
なんですかこれ?」
「好きだった昔のアニメの演説シーンを参考にしたんだけど
可笑しい? ダメ?」
男は頭をかきながらセリフを読み返した。
「いや・・・まあ・・・ダメではないのですが・・・
彼女のセリフとしては違和感があるというか・・・
キャラクターが少し違う気がしますね。」
「そう言うなら仕方ない、書き直しましょう。私は好きなんだけどね。」
女は紙を丸めてゴミ箱に捨てた。
「別に急がなくても大丈夫です。これが必要になるのはまだ先ですしね。
ゆっくり考えればいいですよ。では頑張ってください。」
部屋を出て行こうとする男に女が尋ねる。
「そういえば、あの小説の件どうなったの?」
「ああ、あれですか。うまく誘導出来たみたいですよ。
面白い事になると思います。」
そう言って男は部屋を出ていった。
「面白い事かあ・・・楽しみね・・・さて、私は自分の仕事をしないとね。」
女は背伸びをしてまた机に向かった。
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