第5話 疑念

 大陸歴 300年 6月2日

 

 会合の翌日、議長室を訪ねたノアが部屋に入ると、

 見るからに寝不足で疲れた顔のエマ議長が座っている。


「昨日は徹夜だったみたいですね?議長」


 ノアが尋ねると、


「そうですね、いろいろありましたから・・・

 でも、そんな事は言ってられません。

 クリスタル ブレイブ・・・

 戦争をする人間を全て滅ぼす事で世界から戦争を無くす。

 本気でそんな事をするつもりなのでしょうか・・・。

 しかも、あの連中が現れたのはノストの現場だけです。

 ウエスティアやイスタルの会合場所には現れませんでした。

 何もかもが謎すぎて分からないことが多すぎます。」

 

 エマは険しい顔で答えた。


「ですが、あの女性の能力をご覧になったでしょう? 

 あの帝国の将軍2人を簡単に無力化してしまった。

 彼女が本気になればどれだけの事が出来るのか

 見当もつきません。」


 ノアはエマの顔を見つめて言った。


「それに関して私には疑念があります。」


「疑念ですか? 」


「そうです。あの将軍の2人は会合に出席する

 予定はありませんでした。ですが、

 こちらに何の連絡も無く急に参加しています。

 そこにあの二人組が現れるなんてあまりにも

 タイミングがよすぎます。」

 

 エマの言葉にノアは少し考え込んで尋ねた。


「つまり・・・裏に何かあると考えてるのですか? 

 ですが、最初の襲撃で帝国側の兵士も殺している以上

 帝国とクリスタルブレイブがつながっているとは思えないのですが・・・」


「そうですね・・・自分でも考えが飛躍しすぎていると

 思うのですが、もう一点あります。それは

 シーラ将軍です。彼女は帝国でも最高の魔法の使い手です。

 その彼女が不意をつかれたとはいえあんな簡単に

 動きを封じられるとは信じられません。

 あの女性の力が強すぎると言ってしまえば

 それまでですが、何か違和感を感じるんです。

 それが何か自分でも分かりませんがそんな気がするのです。

 ですが、全ては私の想像でしかありません。」


 再び考え込んだノアにエマが尋ねる。


「両国が停戦したとして、その後に何が起こると思いますか? 

 あなたの考えを聞かせてください。」


「クリスタルブレイブは戦争行為をしないように徹底的に監視するでしょうね。

 100年続いている戦争です。たとえ停戦になっても

 各地で小競り合いや、いざこざは確実に起こります。

 そこに介入してその場にいる全ての関係者を皆殺しに

 する事を繰り返すでしょう。

 その先に世の中がどうなるかは分かりません。

 帝国がクリスタルブレイブの排除を決めたならば

 連合に隙をつかれない為に停戦を呼び掛ける可能性はあります。

 共闘も提案してくると思います。

 現在の戦況は連合側がかなり劣勢ですから、

 こちらも応じるしかないでしょう。ですが、

 クリスタルブレイブを排除できたとして、その後に再び

 帝国は停戦を破棄するかもしれません。

 共通の敵がいなくなれば停戦する理由が無くなります。

 ですが、さすがに帝国内部でも意見が割れるでしょう。

 考えられる最悪の展開は議長の想像通りに帝国と

 クリスタルブレイブがつながっている場合です。

 もしそれが現実なら、魔法連合は滅びるでしょう。」


 2人の間に重い空気が流れた。


「そこまではっきり言いますか・・・」


 苦笑するエマの顔を見てノアは続けて言う。


「どんな形にせよ停戦が実現して両国が協力して

 クリスタルブレイブを打ち倒せば、それをきっかけに

 和平の道を模索できるかもしれません。 

 ですが、今は2回目の会合で帝国の出方を見るしかありません。」


「そうですね・・・。」


 エマはうつむいて息を吐いた。


「私はこれで失礼します。となり街にいるエミリア・グロウベルグに詳しい

 専門家に会いに行ってみます。」


 頭を下げて部屋を出ていこうとした瞬間、ノアの頭に突然ある考えが浮かんだ。

 エマの方に振り返る。


「逆にクリスタルブレイブと連合が手を組めれば

 この戦況を覆してこちらが帝国を滅ぼす事も出来ます。」


 ノアの言葉にエマがおもわず顔を上げる。


「それも選択肢のひとつです。」


 そう言ってノアは議長室を出ていった。












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