第4話 戦争の無い世界
突然現れた二人組に、皆が声を失い固まっている。
その時、緊張した顔のエマ議長が前に進み出て尋ねた。
「あなた達はいったい何者なのですか?」
「私達はクリスタル・ブレイブ。
戦争の無い世界を願っている者。
本日は皆さんにお伝えしたい事があります。
私達はあらゆる戦争行為を認めません。
いかなる理由があろうと認めません。
クリスタル・ブレイブはその為に組織されました。
帝国、魔法連合の両国は停戦してください。
この後、私達が戦争行為を行ったと判断した
国、人間、組織、全てを滅ぼします。
世界から戦争が無くなるまで。」
女性が美しい笑顔で答えた。
「ふざけるな! すでに100人以上殺したお前達が
何を言ってるんだ! 」
レイ将軍が怒りの形相で叫んだ。
すると、周囲の人達も口々に罵声を浴びせる。
その状況を見たエミリアに似た女性はため息をつき
「少し騒がしいですね。こうしましょう。」
そう言って左手の指をパチンと鳴らす。
突然、レイとシーラ将軍の動きが止まる。
まるで時間が止まったように固まっている。
もう一度女性は指を鳴らした。
その瞬間、ノアは呼吸が出来なくなってうずくまった。
空気が無くなったように息が出来ない。
まわりを見ると全員が喉を押さえて苦しんでいる。
「お分かりいただけましたか? 私は騒がしいのは嫌いです。」
彼女が再び指をパチンと鳴らした。
全員の呼吸が戻り、苦しそうに地面に座り込んでいる。
「私達の行動理念は伝えました。
どうするかはあなた達次第です。
今日の所は軽い挨拶だけで失礼します。」
女性が言うと、黒ずくめの男が指で空中に円を描いた。
その円から赤い煙が発生し、二人を覆っていく。
姿が消える瞬間、不意にエミリアに似た女性が
ノアの方を見た。そして、ノアの顔をまっすぐ見て
微笑みながら消えていった。
2人が消えた途端、レイとシーラが動き出した。
「お二人とも大丈夫ですか?いったい何が?」
エマが駆け寄り語りかける。
「あの女が指を鳴らした瞬間、体が硬直して
動かなくなりました。でも意識だけがはっきりしていて
会話も聞こえていました。」
レイが答えると、
「私も同じです。何かの魔法だと思いますが
こんな物は聞いた事がありません。
しかも、彼女のあの顔・・・
若い頃のエミリア・グロウベルグにそっくりでした。」
シーラは困惑した表情を浮かべて言った。
「戦争の無い世界のために、戦争をする人間を滅ぼす。
戦争が無くなるまで・・・なんて
考え方が極端すぎる。まともじゃない・・・
しかも、彼女1人でここにいる全員の行動を封じて、
あなた達のような強者をまるで子供扱い・・・」
つぶやいたエマの顔が青ざめている。
「申し訳ありませんが、今回の会合はここで中断にしましょう。
とにかく私達は一度帝国に戻ります。
この事態を皇帝陛下に報告しなければなりません。」
そう言ってレイ将軍は足早に議場を出ていく。
「国に戻ったら、エミリアの事を調べ直します。
彼女には表に出てない秘された事実が必ずあるはずです。
2回目の会合の準備が整い次第ご連絡致します。」
シーラ将軍がエマ議長と握手を交わしながら言った。
「分かりました。こちらも対応を協議します。」
エマが答えるとシーラと帝国の調査チームは
議場を出ていった。
ノアは最後の場面を思い出していた。
あの女性が消える瞬間、確かに自分の方に振り向いて
顔を見て微笑んだ。
それが何を意味するかは分からない。
だけど、ここから確実に世界は変わっていく。
そんな気がしていた。
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