第3話 合同調査チーム

 大陸暦 300年 6月1日


 帝国とノストの国境付近に設けられた中立地帯。

 捕虜の引き渡し等を行うために作られた場所で

 戦闘行為は禁止となっている。

 ここに、共同調査チームの第一回目の会合が開かれる

 臨時の会議場が建設されていた。

 

 すでにノスト側は席についている。

 エマ議長が全員に向かって声をかける。


「まもなく到着されます。相手は戦争中の敵国の人間です。

 複雑な想いや感情を持つ人もいるでしょう。ですが、

 黒ずくめの男は両国にとって非常に危険な存在です。

 この会合の持つ意味を理解して、

 私情は置いて仕事に徹してください。」


 ノアを含め、全員の表情が引き締まった。


 すると、「到着されました。」の声と共に、

 2人の男女を先頭に帝国の参加者が入ってくる。


 ノアはその2人を見て驚いた。

 一人は黒髪の男性で帝国最強の剣の使い手と

 呼ばれるレイ将軍。

 もう一人は銀色の髪の女性で帝国最高の

 魔法の術者であるシーラ将軍の2人だった。


「お会い出来て光栄です。ですが、お二人の名前は名簿に

 ありませんでしたが・・・」


 エマ議長が握手の手を出しながら言う。


「それについては謝罪します。私達2人も例の男に興味が

 ありましてね。無理を言って同行させてもらいました。」


 レイ将軍は手を握りながら答えた。

 エマは一瞬不審そうな目をしたが、すぐに笑顔で


「なるほど、承知しました。さあ、始めましょう」


 エマが言うと両国の参加者は各自の席に座り、

 第一回目の会合が開催された。


 最初に、事件の経緯と被害状況などの詳細や、

 黒ずくめの男の現在判明している情報が説明された。

 そして、この襲撃で生き残った2人が証言者として呼ばれて

 凄惨な現場の状況を語った。

 残りの2人の生存者はウエスティアとイスタルの会合に

 それぞれ1人ずつ出席している。


「どう考えても、4人は故意に見逃されました。

 何か理由があるのでしょうけど、想像も出来ません。

 男は一人なのか?

 仲間がいて組織で活動しているのか?

 全てが不明です。

 次に転移魔法の件ですが情報がありますか?」


 エマが尋ねるとシーラ将軍が手をあげる。


「その前に魔法の基本的な事を話したいのですが、

 かまわないですか?」


「どうぞ。お話しください。」


 シーラは立ち上がり話し始める。


「皆さんご存じの通り、

 魔法には個別の呪文の言葉があります。

 覚えるにそれが必要です。

 その呪文を声に出して詠唱することで、

 体に刻み込まれて習得した事になります。

 声に出す事が必須になる以上

 何らかの理由で声を失った人は

 魔法を覚える事が出来なくなります。

 一度習得した魔法は、呪文の言葉が無くても

 誰でも無詠唱で発動出来るようになります。

 覚えられる種類も、威力も効力も人によって異なります。

 一般的に魔力と呼ばれる生まれ持った魔法の素質、

 それで決まります。

 魔力が無ければ覚える事も発動も出来ません。

 基本のおさらいはここまでにして、

 本題の転移魔法ですが、当然この魔法にも

 呪文の言葉があります。しかし開発者の

 エミリア・グロウベルグは誰にも明かさなかった。

 当時の皇帝陛下にも伏せていたのです。

 ですが陛下は不問にしています。

 その辺りの経緯は歴史の謎とされており、

 現在でも議論と考察が行われています。


 エミリアの遺言があります。


「自分の死後、転移魔法の呪文を公開するように。」


 彼女の遺言通り、亡くなった直後に公開されましたが、

 100年たった今でも再現出来ていません。

 その理由は呪文の言葉にあります。

 一部分だけ読めない文字が混じっています。」

 ーーーーーーー

  celestial

 ーーーーーーー


 シーラは書かれた紙を皆に見せる。


「世界のどこにも存在しない文字です。

 エミリアだけが読み方を知っているので、

 この魔法は彼女しか使えないのです。

 なぜ、このような事をしたのか分かりません。

 世界中で研究されていますが、解明出来ていません。

 過去のどの文献や古書にも存在が確認できませんでした。

 例の男が転移魔法を使ったのなら、間違いなく

 彼女と関係があります。ですが記録では生涯独身で子供もいませんでした。

 現在、帝国では彼女に血族がいたと仮定して調査を始めています。

 次回の会合で報告出来ると思います。」


 シーラの話が終わるとエマが尋ねた。


「男の戦闘能力に関してどう思いますか? レイ将軍。」


「私やシーラでも、戦闘で一度に相手出来るのは

 10人が限界です。それを50人以上と同時に

 戦いながら全て倒すなんて信じられない。

 それに、どれだけ魔法攻撃が直撃しても無傷とは・・・

 魔法防御のシールドなのか? シーラどう思う? 」


 レイはシーラに問いかける。


「私の作ったシールドでも3回直撃したら壊れます。

 何度当たっても壊れないなんて、ありえない・・・。」


 シーラは首をふって答えた。


「お二人でも勝てない相手という事ですか?」


 エマが尋ねるとレイは一瞬鋭い目をしたが、


「今のところはその通りです。」


 悔しそうに答えた。

 議場が重苦しい雰囲気になる。


「ですが、作戦と戦略を組み大軍で挑めば勝てる

 可能性もあるかもしれません。

 それを次回の会合までの課題としましょう。」


 レイの言葉に全員がうなずいた。


「では、次に男が使っていた小型の無線機についてですが

 これを使って男が話していた会話の内容を

 生き残った連合の兵士が覚えていました。

 お手元の資料に全文を記載しています。ご覧ください。

 この・・・」

 

 エマが言いかけた瞬間、議場の真ん中に赤い煙が発生する。

 皆が呆然と見つめる中、煙の中から男が出てきた。

 全身黒い服装に白い仮面をつけている。

 男のあとに1人の女性が煙から出てくる。

 ノアはその女性に見覚えがあった。

 エミリア・グロウベルグ・・・

 しかも写真で見た若い頃の彼女の姿だった。

 彼女は微笑みながら語りかける。


「私達はクリスタル・ブレイブ」


「戦争の無い世界。それが私達の願いです。」





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