波多家ケンジ

 ミクさんの要望通り、消防団に呼びかけて公園管理事務所内を片付け、退魔の儀式を行うための場所作りをした。

 “魔物狩ハンターり”、なんて突飛な話は普段なら誰もが一笑に付す。でも、嘲笑う者は誰もいなかった。むしろ、人間を捕食する巨大な花が存在するのであれば、それを狩る者がいてもおかしくはないだろうとさえ思う。

 それはそうと立田さんは勝手に火炎放射器を島に持ち込んでいたことについて、村長から失禁するほど怒られていた。しそうなほど、じゃなくてするほど。


 準備が整うと、早々に人払いがされた。


「……ども」


 ミクさんの御主人、波多家ケンジは山を降りようとしている僕達消防団に一礼すると、事務所内に入っていった。

 ミクさん曰く随一の退魔師とのことだが、正直とてもそうは見えなかった。ヒョロヒョロとした体躯、ボサボサの髪、猫背で陰気な様子。不自然に長いロングコートを身に纏う彼のどこにも、心強さは感じられなかった。

 言っちゃ悪いが、化け物退治関係なく一人の人間として、波多家ケンジという男は頼りない印象を受けるのだ。


「大丈夫っすよ。ああ見えて、ウチの旦那強いんで」

 ミクさんに声をかけられて振り返る。厳しい雰囲気の表情をしているが、僅かに口角が上がっている。これが彼女の笑顔なのかもしれない。

 信じられないことに、除霊や退魔の力に関しては、ミクさんよりも彼の方が圧倒的に上だという。賭けるしかなかった。ケンジさんではなく、僕を颯爽と救ってくれたミクさんの言葉に。

 波多家夫妻を残し、僕達は山を離れた。

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