狩人

「これまた随分とえたもんすね」


 波多家はだかさんは僕に纏わりついた蔓を素手でブチブチと千切り、助け出してくれた。僕の太ももよりも太い腕で、いともたやすく蔓を切断していく。

 繭のように形作られた蔓の塊を脱出すると、立田さんが床に寝かされていた。意識を失ってはいるが顔色は悪くなく、生きてはいるようだ。

 事務所はバリケードごと入口が破壊されている。何て威力なんだ。

「緊急事態だったんでちょい壊させてもらいました、すんません。後で弁償しますんで」

 波多家さんは僕に握り拳を示して見せた後、大きな身体を折り曲げて深く頭を下げた。待って、もしかして素手で!?


 そんなやり取りをしている間にも花達は侵入してきているが、何故か波多家さんには飛びかかってこず、蔓も伸ばさない。むしろ、彼女が近寄ると後退さえする。

 彼女の近くにいる僕や立田さんにも、もはや近づいてこない。

「あ、えっと……波多家さん、ありがとうございます」

 花達の不可思議な動きが気になり、危うく礼を言い忘れてしまうところだった。

 ペコペコする僕を手で制して、波多家さんは夥しく繁殖した花達をキッと睨みつける。

「全く……せっかくの休暇が台無しだってーの」

 舌打ちと共に白い長方形の紙を取り出し、花達に向かって投げつけた。

 白い紙は、その質量とは思えないほどの鋭さで異常植物に突き刺さり、青く燃え上がった。燃料でも撒いていたかのように炎は広がり、事務所内の花達を焼き尽くした。

「フダもっと持ってきときゃ良かったな……」

 波多家さんは長い髪をかきあげる。その視線は事務所入口を通り越して広場の方へ向けられている。赤黒い花畑が見える。炎はそこまでは届いていない。

 青い炎は花達を舐めあげると、煙も出さずに消えてしまった。


「波多家さん、あ、貴女は一体…… この、このお化け花は何なんですか……」


 立て続けに起きた出来事に、頭も心も追いつかないでいた。

「とりあえず、ちょっと場所移しましょっか」

 波多家さんは、立田さんを肩に担ぐと、もう一枚白い紙を取り出した。よく見ると、字のようなものが書かれている。まるで御札のようだ。


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