第1章・第3話 ガラクタの国へようこそ!

 ――人間ってさ、どれだけ「ぼっち耐性」が強かろうが「居場所」を求めるわよね。

 それが見つかるのは、ありがたいのはいいとしても、理解の範疇を超えてたのよ。


 人形としての歩幅は、当たり前だけど短い。

 けど、その歩みでも、多分感覚的に七、八分程歩いた時、急に目の前が開けた。


 真っ先に頭をよぎったのは、「散らかりきった部屋」。天井(って言えるのかしら?)が低いから、アリの巣の一室とも言えるかも知れない。


 とにかくそこが、やはり「意味を持った空間」であることは分かる。

 軽く見渡してみると、人間の認識的にだけど、学校の教室程度に感じた。

 奥の方、少し盛り上がっているところには、これも何らかの意味を持っているだろうと推測ができる、結構立派なドールハウスがある。


 そして、地面に横たわっているのは、なぜか人形が多かった。さらにおかしいと言うか、奇妙なことに、その人形達から「人の気配」が感じられた。ちょっと待って。ゴミ人形から人の気配? どうあっても結びつかない。真っ先に頭をよぎったのは「罠」の一文字だった。


 その時、前方から一体のテディベアが歩いてきた。ゴミらしく、あちこちがボロボロだった。ぬいぐるみが歩いている、という驚きは、今に限っては的外れだ。なにせ、自分自身が人形なんだし。


 やがて、目の前まで、テディベアが来た。

「ようこそ、ガラクタの国へ」

 少し高めな、年老いた男の声だった。言葉の意味を考えたり、相手に聞き返すより先に、不思議なことに気付いた。


 テディベアの後ろ。まさしくの背後霊みたいに、人間の上半身が見える。

 その姿は、声から推測できるとおり、パッと見たところで六十代後半ぐらい。白髪の上に、かなり寂しくなった頭。そして顔は、チンパンジーのようだった。サルであるにも関わらず、柔和とも言える笑顔を浮かべている。でも、そもそもからして悪人ヅラだというのが分かる。より噛み砕いて言えば、交番に貼り出されている、指名手配犯のポスター。そこに載っていても、おかしくないどころか、むしろ自然なぐらいだ。服は、グレーの長袖。作業着のようにも見えるんだけど、何かが違っている気がした。


「……ガラクタの国? 何それ?」

 警戒感は解かないまま、その「老人テディベア」に聞いた。

「まあまあ、立ち話も何でございますから、どうぞこちらへ」

 テディベアが、そのほつれた丸い手で奥の方を指す。こっちへ来い、と言うことらしい。背を向けて歩き出す、汚れた茶色。意を決してその後に続いた。


 足下は、いろんな者が散らばっていて、かなり歩きづらかった。フリマアプリが今使えたなら、売りさばけるものと、そうでないものに全部分類して、即刻片付けたい。とは言え、少し見ただけでも、値段の付きそうな物は見あたらない。もっとも、だからこその「ゴミ」なんだろうけど。


 とにかく、そんなゴミだらけの中、空間的には左奥あたりに、いかにも不釣り合いな感じでテーブルと椅子があった。当然、人形サイズではある。でも、今の自分が他ならぬ人形だからか「普通サイズ」に感じる。

「どうぞ、お掛けください」

 レディーファーストのつもりなんだろうか、まず熊の方が、席を勧める。別に断る理由もないし、少し落ち着きたいのもある。椅子を引いて、腰を下ろした。は、いいけど、やっぱりギクシャクした。


 ……ぶっ飛んだ世界に、足を踏み入れた瞬間だった。

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