馬と人

はるか大昔のとある小村。私は馬の牧場を経営している小男だ。

飼育している馬の肉はとてもおいしいと村内ではもっぱら評判だ。

そんな私だが、体が小さいことで住民からバカにされている。

周辺の村と戦になると、体格差があるので役に立たないと思われているからだ。


「生まれつき、能力に差があるのって不公平だよなあ」


愚痴を言いつつ、近くの馬に目をやる。そこには牧場内で最も小さい馬がいた。

私が「チビ」と呼んでいた馬だ。


「お前も体が小さいよな、どう扱えば良いのやら。食べられる肉は少ないし、筋肉も少ないから荷物運びも出来ないし……。うーむ」


あれこれコイツの処分法を考えていると、息子がやってきた。


「ねえパパ、これに乗っていい?」


危ないと思いやめさせようとしたが、言うよりも早く息子は馬上にいた。

息子が乗っているのに、チビは振り払おうとするそぶりを見せなかった。


「嫌がらないのか。もしかして、私が乗っても大丈夫なのか……?」


試してみたら、上手くいった。息子よりも重いせいなのか、少し落ち着かない様子だが、私を振り落としたりはしなかった。訓練を積めば、細かい指示も理解できるようになるかもしれない。


「馬上から槍や弓で武装して戦えれば、尊敬されるようになるかも。ようし!」


それから数年後、私は馬上から仲間に指示を出しつつ村を勝利に導いた。

さらに、牧場でチビの繁殖を行うことに成功した。おかげで、戦闘用の馬を仲間たちに配れるようになり、村の防衛を強化することも出来た。


「いやあ、これだけ村に貢献したんだから、私は尊敬されるんだろうなぁ」



数十年後、村で尊敬されていた牧場主は世を去った。

村人たちはひどく悲しみ、忘れることのないように名前を彫り埋めてやった。


大きな文字で「チビ」と彫られたのだそうだ。

果たして、どちらのことを指しているのだろう?









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