鳥とかぶり物
私は帽子。今はフワフワと空をただよっている。
風が気まぐれを起こし、私を高く舞い上げてしまったのだ。
大地がとても小さく見えてくる。人間も同様に小さくなっていく。
人間たちがアリのようだ。そういえば、あの子が言っていた。小さなアリさんは働き者だって。空から見た人間は一生懸命に働くアリと同じに思えてきた。
大地とは反対に、雲は大きく見えてきた。へえ、これが鳥たちの見る光景なんだ。
翼のない私が、この瞬間だけは彼らと同じ空間にいられるんだ。
「おいおい、君は何者で、どうしてここにいるんだい?」
近くに鳥の群れが近づいてきて、素朴な疑問を投げかけてきた。
普段は見かけない私を見て不思議に思ったのだろう。
「人の頭の上にいた帽子です。強風に吹き付けられたんだ。気が付いたらここまで来てたのさ」
フーン、それはそれは……。
口には出さなくても、伝わってくる無関心とよそよそしさ。
ああ、この空間に住まう彼らは私を受け入れてくれそうにない。
早く降りていけ、と言わんばかりだ。
「地上にいる豆つぶたちのところからねえ。正直、僕たちはあんな場所に住みたくない。ギュウギュウとしていて、窮屈そうだもの。ただ、上から見下ろす分には面白いよ。余裕がなさそうに生きているように見えるから。本当にちっぽけな奴らだよ」
地上にいるあの子のことすらもバカにしている。
そう思えてしまったから、彼に言ってやった。
「間近で見聞きもしていないのに、全てを見知っているかのように高みの見物をするんだ。そんな君たちとは仲良くできそうにないね」
その直後、私は地上へ向けて急降下を始めた。
どうやら、小さな私の空への旅はここで終わりのようだ。
そして、見慣れた姿、聞きなじみのある声が確認できた。
「ママー、ぼうしがもどってきたよ!」
私を見つけて満面の笑みを浮かべる彼女の姿が見られて、私は嬉しい。
それがどんなに貴重なことか、空にいる彼らには分からないのだろうなあ。
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