アドバイス11 テスタ・ビランチャ

「この度はなんと礼を言ったらいいのか。先生、ありがとうございました」


 テスタの事務室を訪れたクオレは深々と頭を下げた。


「いえいえ、私なんて偉そうにアドバイスしただけですから。でも。大事がなくて良かったです」


 クオレはふっと笑みを浮かべると、


「ご謙遜を。僕が気づかないと思いましたか? あの場所に先生もいましたよね。しかも僕の声真似までして、『敵を討てっ!!』って」


「あー、えー、ナンノコトカナ」


 明らかに目が泳いでいるのだが、瓶底メガネで見えなければいいなぁと淡い期待をするテスタだが、


「目が泳いでますよ」


「すみませんっ! 王族の声真似どころか、王族を語っての命令まで出してしまいまして。出来ればお咎めなしにしていただけないでしょうか?」


「はい。わかりました。それにあの命令は僕が出したくても出せない命令でしたので」


 テスタはふぅと胸を撫でおろす。


「そ、それで、その、アヌラさんとの件は解決しましたか?」


「はい。おかげさまで、あれ以降はアヌラに憎悪を抱くこともなく、むしろ以前よりラブラブです」


 へにゃっとだらしない笑みを浮かべる姿は以前では決して見られない王子の姿だったが、テスタとしてはそちらの方がより好感が持てる姿だと感じた。


「先生には大きな恩ができました。もし、何か困ることがあれば今度は僕が助けますので、なんでも言ってください」


「嬉しいです。えへへ。それじゃあ、さっそくここの教師クビにならないようにしてください~。王子たちが卒業しちゃうと本当に受講生が少なくなってマズイんです!」


「へ? あ、ああ、わかりました」


 苦笑いを浮かべながらクオレはそう言うと去って行く。

 続いて、入れ替わるようにアヌラが入ってくると、


「先生。今回の件は本当にありがとうございました。これで最悪でも修道女送りまでで死ななくて済みそうです!! あとは卒業パーティで婚約破棄されないといいんですけど」


「それはたぶん大丈夫じゃないですか? アヌラさんに聞いていた話とずいぶん違う展開になりましたし。それにここだけの話、王子はあなたにラブラブですよ。リマさんなんてそれこそ眼中にないくらいです」


「そ、そうだといいんですけど」


 アヌラは照れたように金髪縦ロールをいじる。


「それと誘拐犯を護衛にしたとか聞きましたけど、処刑とかになるなら彼らが守ってくれるのでは?」


「あれ? そのこと先生にお話ししましたっけ?」


 テスタは一瞬、しまったと言う顔を見せるが、すぐに、「王子殿下から先ほど聞きまして」と見事な言い訳をする。


「クオレ王子から? そうですの。確かにわたくしに忠誠を誓ってくれていますし、良い働きをしてくれていますわ。確かに下手に動かなければ命は問題なさそうですわ。これも全部先生のおかげです!! あとは卒業パーティまでよろしくお願いしますわ」


 アヌラが席を立つと、去り際に、


「あ、先生、よろしかったら今度縁談をお持ちしますわ。レオーネなんか将来有望ですし良いかもしれませんよ」


「えへへ。ほんとですか。よろしくお願いします」


 そしてアヌラが立ち去ると今度はリマが訪れる。


「先生。今度、アヌラお姉さまが卒業してしまうのですが、どんなプレゼントなら喜んでもらえると思いますか?」


「そうですね。アヌラさんは、甘いものが好きなので、手作りのお菓子なんてどうでしょう? たぶん、単純に高い品ならなんでもご自分で買えますし、リマさんの手作りの方が喜ぶと思いますよ」


 リマも今ではすっかり学園に慣れ、こうして気軽に相談に来る仲になっていた。

 アヌラのお気に入りというのも学園全体に伝わり、彼女に対して悪意を持って何かしてくる相手は存在しなくなったと言っていい。


「先生。ありがとうございます!! 先生の分も作って持ってきますね!!」


「期待して待ってます!」


 リマは深々と礼をしながら退室する。


「さてと、このあとのシナリオは……」


 テスタは無造作に置かれた資料という名の紙の中から、閉じ紐で閉じられた冊子を抜き取る。


 そこの表題には、『悪役令嬢はアドバイスをもらって破滅の未来を回避します!!』と書かれていた。

 中身は市政にも出回っているようなファンタジーの物語ではあったのだが、


「まさか、召喚でこの本が出て来たときはミスったかと思いましたが結果としては大当たりでしたね」


 それは異世界の書物であり、内容は異世界の知識を持つ公爵令嬢が自分の破滅の未来を回避する為に、学園のいろいろな教師からアドバイスをもらって破滅の未来を回避するという内容で、最後は悪役令嬢の主人公が王子とくっついてハッピーエンドで終わる。いわゆる悪役令嬢物の作品だ。


 マルチエンディングなどもなく、単純に一本道のハッピーエンドであった。

 この状況は、アヌラに酷似しており、テスタが確信したのは始業式のやりとりだった。本人の意思のようであったがこの本に記された通りの行動。ただ違う点は、この本ではいろいろな教師にアドバイスをもらうのだが、テスタは本の知識で持って一人で全てのアドバイスを行った。

 乗りかかった船というのもあるし、いの一番に声を掛けた責任もあるし、だが、最大の理由は単純にテスタが他の教師と交流があまりないのが一人で乗り切った理由だったりもした。

 本書では最初に相談した先生が次の相談を受けると、別の先生の方が適任だからそっちに聞いてみなさい。と言われ、アヌラが次々と赴くのだが、初手がテスタになってしまった為、「紹介? 何それおいしいの?」状態であった。


 一人で行うことに不安も多少あり、声真似の発声練習をしているところとか、アドバイスの練習で寝不足で遅い朝食を取っているところとか見られたが、なんとか一人でこなせた。通信用のお札の用意には懐を痛めたが、それもこの結果の為となけなしの貯金を切り崩した。

 その結果、王子、公爵令嬢、聖属性の未来の聖女からの信頼を独り占めすることとなった。


「教師の職もきっと、王子のおかげで安泰でしょうし、これで研究に没頭できます! 他にも困ったことがあればアヌラさんにリマさんが助けてくれるでしょうし!!」


 そのとき、以前使った召喚陣からパチパチっと火花が散ったかと思うと、ばさっと一冊の冊子が落ちて来た。

 表紙には『悪役令嬢はアドバイスをもらって破滅の未来を回避します!! 2巻』と書かれており、ざっと見た限りでは、3年後に新たに現れる悪役令嬢とヒロインの話のようであった。


 正直に言えば、地位としてはすでに安泰。この2冊目は無視しても他の教師がなんとかするだろう。しかし、テスタは自分の性格を冷静に分析した結果。


「見捨てるなんて出来ないですよね~。一応教師ですし。えへへ。さてと、それじゃあ、どうしましょうか」


 次のアドバイスを考える必要に駆られ、テスタは少し悩んでから、ポンと手を打った。


「それでは、こう言うのはどうでしょう?」

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悪役令嬢のアドバイザー ~悪役令嬢はアドバイスをもらって破滅の未来を回避します!!~ タカナシ @takanashi30

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