アドバイス10 クオレ・ソーレ
「なんだ? テメーは?」
額に傷のあるゴロツキは睨みつけて来るクオレに負けず睨み返す。
「彼女の婚約者だ。何度も言わせるな」
クオレは腰に佩いた刀剣を鞘から出すと、その剣先をゴロツキに向ける。
「彼女を今離せば許してやる。そうでなければ楽に死ねると思うなよ」
学園では一切見られない強い語調の王子に、アヌラは目を丸くして驚く。
それは、まさか悪役令嬢の自分に対してそこまで怒ってくれていると思っていなかったし、ましてや愛されているとも思っていなかったからだ。
「おお。怖い怖い。婚約者を離せか。そりゃそうだな。人質にされちゃあ敵わないもんなぁ」
ぐいっとアヌラを引き寄せるゴロツキに、クオレは眉根を寄せる。
「っ!!」
確かにアヌラを人質にされては動きづらい。婚約者の安全を第一に考えるなら、そうされる前に目の前のゴロツキを倒すのが先決だった。
これが逡巡の代償かともいうような過酷な現実が襲い掛かったかに見えた。
「こんなクソみたいな世の中じゃあ、理不尽なんてのは当たり前にある。だが、俺にも好みってもんがあってよぉ。女子供を人質に取って戦うなんて趣味じゃねぇ!
1対1の決闘なら受けてやる。この女を離すかわりにお前も兵を退かせろ」
「わかった。言う通りにしよう」
ゴロツキはアヌラを離し、クオレは兵を退かせると、2人は対峙した。
「ゴロツキにしてはプライドが高い。名は?」
「レオーネだ。姓はない。ただのレオーネだ」
「そうか。僕はクオレ・ソーレ。いざ、尋常にっ!」
クオレの武器はロングソードに対し、レオーネの武器は2本のショートソードであった。
射程ではクオレが上回るものの、手数ではレオーネに分がある。
先に動いたのはレオーネだった。
通常ではありえない速度で動くと一瞬で距離を詰め、王子に斬りかかる。
「――っ!? 風の魔法!?」
ギリギリで避けたクオレだったが、白い軍服の襟がひらひらと地面に落ちる。
「よく避けたな。普通なら首が体から離れているところなんだが。今なら降参もありだぜ」
まだまだ余裕のありそうな不敵な笑みをレオーネは浮かべる。
「降参? まさか。婚約者をおいてその選択肢はない! だが、腑に落ちない、なぜ、魔法がつかえるものがゴロツキなんかに」
「はっ! 王子さまには関係ない話だっ!!」
実はこのレオーネというゴロツキは没落した貴族の嫡男で何代も魔法使いの発現がなかった家だったのだが、隔世遺伝とでもいうのか、レオーネの代になり魔法が発現したのだった。という設定であり、アヌラが現世で行ったゲームの攻略対象キャラの一人であった。リマ・トーロが彼とハッピーエンドを迎えるルートだけアヌラは死なず修道女送りとなるのだ。
「そうだな。関係ない。僕の婚約者を傷つけようとした相手に、王族だなんだという肩書きなんて意味なんかない」
クオレは剣を鞘へ戻すと、なぜか鞘に入ったままで構える。
「なんだそりゃ? 相手を殺したくないって、甘ちゃんな考えか?」
再びの高速移動から、レオーネの剣は確実にクオレの首を捉えていた。
しかし、首に到達したショートソードはどろりと溶けていた。
「僕は王国の太陽。太陽にたかがハガネが届く訳ないだろう」
「ひ、比喩じゃなく、炎属性の魔法だからかっ! それも高位のっ!!」
クオレの振るったロングソードがレオーネの脇腹にめり込み、骨の砕ける音が響く。
「がはっ!!」
喀血しながら、痛みにのたうち回るレオーネにクオレは剣先を向けた。
「勝負ありだな」
「あ、ああ、くそっ。強すぎる。反則だろ……」
「これにも欠点くらいあるさ。例えば自分も剣が使えなくなる」
王子の持つ剣を鞘から引き抜くと、中のハガネが全て溶けており、どろどろとしずくがこぼれる。持ち手の装飾も良く見るとクオレの手の中で溶けていた。
「はっ。笑えないな。くそったれ。俺のことは、あとは好きにしろ。だが、俺の部下たちは逃がさせてもらうぜ」
その瞬間突風が襲うと、一時的に視界が奪われる。
風が止むと、周囲のゴロツキたちは、まだその場に留まったままだった。
「お頭を置いて逃げるなんて、オレたちには出来ねぇ!! 逃げるときも、死ぬときも一緒だ!!」
「くそ。馬鹿野郎共が。ガキの面倒は誰が見るんだよ」
レオーネは脇を押さえながら立ち上がると、
「はっ! 往生際悪くてすまんな王子さまよぉ。だが、俺は生きて帰らんとならんみたいでな。もう少し付き合ってもらうぜ」
レオーネは剣を握る力もなく、なんとか形だけの拳を作る。
「もうお辞めになりなさいっ! レオーネ! あなたにわたくしから
2人の間に割って入ったのはアヌラ・プルトーネ。
そして、彼女は元のストーリーそのままのセリフを言い放つ。
「未来の国母に尽力したうえで暮らすに困らない金を手に入れるのと、犯罪者になってわたくしたちとやりあうのどちらがよろしくって? もちろん前者を選べば今日のことは不問よ」
その言葉に目をパチパちと瞬かせたレオーネは、「どういうつもりだ?」と聞き返す。
「あなたたちの腕前は確かだわ。わたくしの護衛を簡単に負かし、しかも殺していないというおまけつき」
「ああ、殺しは怨嗟を生むからな、必要最低限しかやらない」
クオレは溶けたショートソードを拾うと、「そのようだな」と呟く。
2本のうち片方はしっかりと刃がついていたのに対し、もう1本は刃が潰れており、これではただの鉄の棒であった。
「だから、わたしたちの護衛になりなさい。あなたなら歓迎するわ。それにあなたが選りすぐったメンバーも一緒に迎えてあげるわよ」
「くそっ。どっちにも敵わないな。どうかよろしく頼む」
レオーネは深々と礼をすると、その場に倒れた。
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