アドバイス9 クオレ・ソーレ
馬車が襲われるより少し前、クオレはテスタから言われた時間、場所に兵を連れて赴いていた。
情報の信ぴょう性としては半信半疑だったが、普段は一種の不真面目な様相すらあるテスタ・ビランチャがあそこまで真剣に言い放った情報。どうしても信じずにはいられなかった。
そして、その時間になると、テスタの言う通り十人程度のゴロツキが不意を打ってアヌラの護衛を倒していく。
「情報は本当だったようだ……」
このとき、まだクオレはなぜか助けに行くべきか悩んでいた。
なぜ悩んでいるのかも謎だが悩んでいた。まるで助けに行ってはいけないようなそんな感覚が全身を襲い、思考が停止する。
(僕は王子クオレ・ソーレなんだ。婚約者を助けるのは当然だ。だが、なぜ……)
王子の号令がない為、兵たちも動けず、ただただ護衛がやられていくのを見ているだけだった。
そうこうしているうちに、アヌラが乗る馬車にゴロツキの手が掛けられる。
「――っ!! やめなさいっ! 無礼者っ!!」
「アヌラっ!!」
自分はいったいどうしたいのかを自問自答するクオレ。
(僕はアヌラが婚約者だから助けると言った。だから助けなくては。だが、それなら誰でも助けたのか? なぜかテスタ先生が引き合いにだしたリマ・トーロが同じ状況だったらどうだ。もちろん助ける。助けはするが、わざわざ自分で赴いてまで? 分かっていれば兵を差し向ければいい。なぜ自分自身の足でここまで来たのに戸惑うクオレ!! アヌラは僕が選んだ女性だろうがっ!!)
幼少期、クオレはアヌラを一目見た瞬間恋に落ちた。
最初からアヌラが婚約者になることは決まっていたが、そんな力関係などまだ知らないクオレはしきりに父王に彼女を婚約者にとせがんだ。
もちろんそのつもりであった為、喜んでその願いは聞き入れられたのだが、クオレの中では自分が選んで婚約者にしてもらった女性という意識が強かった。
大人になりすでに決まっていたことだと知った今でもその思いは変わらず、なぜ最近急に憎悪を覚えるようになったのか自分自身が分からなかった。
「これはきっと、神が僕に与えた試練なんだ。与えられるだけの愛じゃなく、掴み取るのが真実の愛だと」
覚悟が決まったクオレは兵に号令を出そうとするが、声が出ない。正確には声を出しているのだが、音として響いていない。
「な、なぜっ? くっ。なら自分だけでも彼女の元にっ!!」
たった一人の突撃。
優秀な兵たちなら少しあとに続いてくれるだろうが、その間にクオレ自身が無事な補償はない。
しかし、それでもクオレは立ち向かった。
「敵を討てっ!!」
クオレに似た声がすぐさま追いかけるように聞こえ、兵たちはほぼ同時にクオレと共にゴロツキの集団にぶつかっていく。
ゴロツキ共の悲鳴が聞こえてくる中、クオレは恐怖に顔を引きつらせ、馬車から無理矢理に降ろされる婚約者の姿を見止めると、怒りで頭の中が真っ赤に染まり、自然と言葉が口から出ていた。
「僕の婚約者を離してもらおうか」
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