アドバイス8 クオレ・ソーレ
アヌラ・プルトーネが語る本来のストーリーでは、冬季頃になると、王子クオレと疎遠になりつつあり、学園での立場もあまり良くなく、一人で行動することが増えていた。
未来の国母とは思えぬ扱い、護衛も自らの家がつけた数名だけであり、その事実は悪党どもが甘い汁を夢見るには充分であった。
ある日、アヌラが出かけているとき、数名のゴロツキに馬車が襲われ誘拐される。
しかし、悪役令嬢であるアヌラはその不幸を幸運だと思うのであった。
お金目当てのゴロツキたちに逆にリマ・トーロを襲えばお金を払うと交渉した。
「未来の国母に尽力したうえで暮らすに困らない金を手に入れるのと、犯罪者になってわたくしたちとやりあうのどちらがよろしくって? もちろん前者を選べば今日のことは不問よ」
その啖呵にゴロツキたちは、公爵令嬢を相手どるより平民を一人害せば大金が貰える。同条件どころか明らかに平民一人の方が条件が良かった為に首を縦に振った。
しかし、結局は誘拐しようとしたところで、王子クオレに見つかり倒され、さらにアヌラから依頼されたことも露呈する。
これが一番の契機となり卒業パーティで婚約破棄からのリマへ直接襲い掛かり処刑の流れである。
※
アヌラ・プルトーネは本日ゴロツキに襲われるのが分かっていたが、強制力の所為で、大してお供も連れず。それどころか王子が手配してくれていた護衛は全て断って数人の護衛だけを伴って街へ出ていた。
「ふぅ、今日が襲われる日ですわね。テスタ先生は任せておいてとおっしゃいましたが、今回はなんのアドバイスもくださいませんでしたし、心配ですわ」
チラチラと雪が降る中、アヌラは白い息を吐き出しながらそんな独り言を言い馬車に揺られていると、ガタンっと急に止まる。
とうとう来たっ! と思っていると護衛たちの悲鳴、そして馬車の扉が開かれた。
「アヌラ・プルトーネだな。お前には人質になってもらう」
ドスの聞いた声の持ち主は無精髭にもじゃもじゃの髪、額には大きな傷があり、いかにもゴロツキという風体。
「おらっ! こいっ!!」
無遠慮に掴まれた腕に痛みが走る。
「――っ!! やめなさいっ! 無礼者っ!!」
強い口調などただ虚しく、リーダー格のゴロツキの耳には届かなかった。
「おいおい。お嬢様が優しくエスコートしてもらえるとでも思っているのか? さっさと馬車を降りろ」
「絶対にイヤですわ!!」
男の力に抗えるはずもなく、アヌラは力任せに馬車の外へと引きづり出される。
「大人しくしてな」
首筋に当てられたショートソード。
恐怖からか、それともシナリオの強制力なのか、その場に固まるように抵抗できなくなる。
アヌラはこのままでは、このゴロツキにリマへの襲撃を依頼する最悪のルートを辿ってしまうと恐怖に震えていると、
「ぐわぁっ!!」
アヌラの護衛たちは全員やられたはずなのに、悲鳴が聞こえてくる。
「誰だっ!?」
その声に一番に反応したのはアヌラではなく、リーダー格のゴロツキだった。
「僕の婚約者を離してもらおうか」
雪が降る中、白の軍服に刀剣を携えたクオレは怒りを隠そうともせずゴロツキを睨みつけていた。
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