アドバイス6 リマ・トーロ

 アヌラが教室に入っていった頃、外ではテスタがスタンバイしていた。


「アヌラさんの話通りなら、今からここに王子が来るはず。王子が来て話がこじれると私のアドバイスが無駄になっちゃう可能性もありますから、何が何でも足止めしなくてはっ!」


 そう意気込んでいると、さっそく煌びやかな白と金の礼服に身を包んだ王子が護衛兼従者と共に教室へと向かっていく。

 クオレの美貌は正しく王国の太陽と称される程であり、人間において考えうる限りの完璧なスタイルに顔立ち。失礼すぎて図ったものはいないが、もし細かい採寸までさせてもらえたら黄金比になっているのではないかと噂されるほどの完璧さである。

 ただし人格においては良し悪しが別れ、これと決めたら一直線で正義感に熱い。王族としてはどうなのかという性格だが、人間としては好まれている。


「あ、すみません、クオレさん。ちょっとお聞きしたいことがありまして」


 実は完全に見切り発車。話題も何も考えていないのだが、とにかく足止めの為、声をかける。


「えっと、その、今日は良い天気ですね」


「ええ、そうですね」


 クオレの太陽にも引けをとらない輝きみたいに明るい笑顔に目を細める


「で、聞きたいこととは?」


「えっと、その~」


 何も言えずにいるテスタに対し若干怪訝そうな顔を浮かべるが普段から変わり者で通っている為か、そこまで気にされることもなく、「特に用がないようでしたら、これで」としっかりした対応で去って行こうとする。


「ああ、待ってください。そ、そう! 最近、婚約者のアヌラさんとはどうですか? 何かあったりしませんか?」


 その言葉にクオレはピクッと肩を震わせてから歩みを止めた。


「アヌラですか。そうですね。最近は自分でもよく分からないんですよ」


「そうなんですね。よかったら私の部屋でしっかり聞きましょうか? もしかしたら人生の先達として何かアドバイスできることがあるかもしれません」


               ※


「いや~、まさか王子の相談を受けることになるとは思ってなかったですよ。えへへ」


 テスタの事務室にて、テスタとアヌラは紅茶を酌み交わしていた。


「裏でそんなことが」


「あっ! 密室に男女二人だからと言って何も間違いは起こさないですよ! 神に誓って!!」


「ええ、もちろん、先生を信じていますわ。ただ、そうでなかった場合、ヒロインのリマはシナリオの強制力の力に守られてますから殺し屋とか差し向けても無駄でしょうけど、先生はその範疇にいないですからね。簡単に亡き者に出来ますから安心ですわ」


「うわ~、すっごく悪役っぽいセリフですね」


「ええ、わたくし悪役令嬢ですもの。ふふっ」


 アヌラは冗談半分にそんなことを口にしつつ紅茶を口に含んだ。


「で、今回はどうしてシナリオと違うことが起きたのですか?」


「ああ、それはですね――」


 テスタはリマからも相談を受けていた事を明かし、アヌラのことは怖くない。もし何かあっても頭を床にこすりつけるくらい謝れば絶対に許してくれると伝え、その上で、急にアヌラさんが来るのではなく、来ることを想定させ頭を下げるのを行動に移す思考時間を確保する為、事前に通信用の札を持たせたことを話した。


 そして、平手打ちが空振れば、リマも怪我をせずシナリオの強制力から一時的にでも外れると読んで、アヌラの方にも悪癖を打ち明けるよう伝えておいたのが今回のアドバイスだった。


 見事にアドバイスはハマり、アヌラは破滅する未来から少し遠ざかり、リマはアヌラへの恐怖心を無くすことが出来た。


「という具合です。もしかしたら王子が教室に入って、リマさんが立ち上がってしまうと平手打ちを喰らってしまったり、現場を勘違いして結局アヌラさんが悪役にされるのを防ぐ為、私頑張りました! えへへ」


「そのことについては感謝しかありませんわ」


「あとはクオレ王子をなんとか出来れば完璧ですね!」


「ええ、どのような相談かはわたくしには測りかねますが、テスタ先生、よろしくお願いいたしますわ」


 シナリオから外れたからだろうか、アヌラの悪癖は少しずつ身を潜めているように思い、テスタはこれは良い兆候で、あとは本当に王子だけなのだろうと気合を入れ直した。


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