第541話 2024/08/15 ㈭ 鬱の始まり

終戦記念日の午後一時半、目が覚めると、カーテン越しの陽射しが部屋を照らしていた。ベッドから起き上がり、ドラムのパラディドルの練習を少しした。リズムが心を落ち着かせ、少しだけ気分が晴れるような気がする。二階から一階に降りると、弟が来ており母と話しているのが聞こえた。「よう」と声をかけるが、弟は一瞥をくれるだけで無視する。本当に失礼な奴だ。母親がしんどいと言ってベッドに戻ると、入れ替わるように父が起きてきた。私は父と話すことはない。子供の頃、暴力を受けていて顔を見るだけで苦痛だ。


弟は一切父の暴力を受けておらず、親しげに話している。母と夕食の献立について話していると、弟が「帰るわ」と言って、私を一瞥する。「誰が挨拶するかい、アホンダラ」。弟は、私が躁うつ病で両親に散々迷惑をかけているから、介護は私の義務だと思っている。だが、何も私は両親に迷惑をかけようと思って病気になったわけではない。勤めていた会社で、過労で精神的に限界を超えてしまったのだ。弟はコネで会社に入り、のうのうと仕事をしているだけ。「一回、病気になるくらい仕事してみろ」と言いたくなる。


こういう言葉がある。入院、軍隊あるいは刑務所に入って、男は本当の男になると。だが、弟はそうではない。ヘナヘナの男だ。今日も愚痴になってしまった。何か他に話題はないだろうか。そうだ、最近頭にメロディが浮かんでくる。それをギターで弾いて録音しているのだが、なんとも奇妙なやつだ。ベースの玉ちゃんに聞かせれば、「暗いメロディですなあ」と言われるだろう。それは、誰にも理解されない、私だけのメロディだ。


もう一つ話題があった。ギターを売ることをやめた。今持っているバッカスのジェフ・ベックモデルのギター、六弦と一弦のチューニングが狂うので、六弦と一弦を外すことにした。これなら問題ないだろう。両親の介護が終われば、私は何もすることがない。独身で子供もいない私は、生きるために仕事をするが、なぜ生きなければいけないのかとも思う。彼女がいれば良いと思うが、その彼女ができない。過去に同じ心の病を持った女性二人と付き合ったことがあるが、頭にきた。健常者と付き合うことができれば良いのだが、私は入院歴が四回もあるので、無理だ。それに今、57歳で、性的な興味も特にない。いや、ソープランドに一度行ってみたいが、お金がない。だから、本当に生きている意味がない。私は鬱が始まった。




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