第2話 アカネを買う

 帰り道の高架下には、飲み屋が広がっている。


 月曜日からこんなところを歩きたくなかった。

 しかも女一人で。


 溜まったストレスは発散せねばと、周りの目は気にせずに立ち飲み屋に寄り、すぐさま中ジョッキを飲み干して、食料を胃に詰め込んでいった。


 段々と酔いも回る頃、見覚えがある顔が視界に入った。

 服装は違うけれども、見間違えるわけがない。


 私の推しのアイドルだ。


 こんなところで何をしているんだろう。

 今日ライブは無いから、遊んでいるだけかな。


 こんなところで?


 詮索は良くないと思いながらも遠くから眺めていた。

 彼女は待ち合わせだったようで、中年の小太りな男の人がやってきた。


 男の人が何かしゃべると、二人は腕を絡ませた。


 チラッと見えた彼女の顔は、表情が全く無くて、死んだような目をしていた。


 絶対に彼氏には見えないし……。

 というか、男の人は指輪もつけている。


 これは、いわゆるという奴だろう。


 そう気づくと、いてもたってもいられなくて、飲んでいた2杯目の中ジョッキを一気に飲み干して机へ叩きつけると、彼女の元へと足を進めていた。


「こういうの良くないと思います」


 酔った勢いだろう。普段は私はこんなこと言わないはずなのに男へ食って掛かった。


「なんだお前。 何が言いたいんだ」


「警察呼びますよ?」


 そういって、スマホを取り出して電話を掛けるそぶりを見せた。

 そうしたら男の人は、うろたえながらアイドルに罵声を浴びせ始めた。


「おい、話が違うぞ。お前たちグルなのか? ‌ふざけんな! ‌もう二度と顔も見たくねぇ! ‌クソが!」


 そう吐き捨てると、男は走り去って行った。


 その場に残された私と彼女。

 彼女は、鋭い視線で私を睨みつけてきた。


「ちょっと、何してくれてんの? ‌ふざけんじゃねえよ!」


 すごい剣幕で怒りをぶつけてきた。


「私は、ただあなたを助けたくて……」

「生きるためにはしょうがねぇんだよ。金が必要なんだよ」


「今の援助でしょ? ‌やめた方がいいよ」

「あんたがしたことは偽善なんだよ! ‌結果的に私を殺してるのと同じなんだよ!」


 そう言われて、気づく。

 そうかもしれない。


 何で正義ぶって出しゃばったんだろう。

 けど、推しの良くない姿は絶対に見たくなかった。


 そんな思いから、酔った勢いでまた口走っていた。


「そんなにお金が欲しいなら、私が援助する! ‌私に奉仕しなさい!」


 彼女はキョトンとした。


 表情は変わらず、死んだ目のまま彼女は「わかった」と言った。


 私は引くに引けなくなって、立ち飲み屋の会計を早急に済ませると、荷物をもって私の家まで向かった。


 彼女は連れられるがまま、一言も発さずに私の家までついてきた。

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