第29話 寝たら惑わされませんでした
「はぁ? どういう意味だい? この美しき街アルトを? キレイに? 目が腐ってしまっているのかな?」
ナルシィは心底分からないという表情で俺を見ている。
娯楽の街として楽しい事がいっぱいあるのは良い。
だが、多くの人間が労働を放棄し、自堕落に生きている。
そして、やはりここでも奴隷階級が苦しむ羽目に陥っている。
その上、ゴミやら放置。処理も行き届いてないみたいだし、ヤバい未来が目に浮かぶ。腐ってんのはお前の目だろ。
「多分面倒な事もほったらかしにしてんだろ。裏町はひでえことになってたぞ」
ナルシィは苦虫を噛み潰したような表情をする。
実際、街を歩いていて思ったが、ここの人間はみんな怠惰で退廃的だ。
働くことは悪で、働かずに遊んでいるのが正しい、格好いいと思っている節がある。俺も働きたくはない。だが、こうはなりたくない。
ナルシィは何か言い返そうとしたのか口をパクパクとさせるが、言葉が出ないようだった。
「そういうわけだから、俺はこれからゴミ掃除を始める。まずはデッカイゴミのお前からだよ」
俺は剣を抜き、ナルシィに斬りかかる。
しかし、ナルシィは剣を抜いて受け止める。
「僕に歯向かうなんて無謀なことはやめた方がいいと思うけどね」
「やってみねえと分からねえだろ」
俺とナルシィの剣がぶつかり合う。
ナルシィは俺の斬撃を受け流したり弾いたりしながら距離を取る。
相変わらず剣筋は、確かに、美しい。
「ふんっ。ネズ、確かに少しはできるようじゃないか。なら、これはどうだい?」
ナルシィの周りに複数の魔法陣が出現する。
そこから炎や水などが現れて襲ってくる。腐っても七光。実力はこの国じゃあトップクラスだ。間髪入れずに多彩な魔法で俺を追い詰めようとしてくる。
「おっと」
その攻撃を避けたり防いだりしながら、少しずつ距離を詰めていく。魔法自体はそこまで強力じゃない。理由があるのか?
「どうだ! 貴様より美しい魔法だろう!?」
下らない理由だった。
「ふっ! どうしたネズ!! 避けるだけで精一杯か! 美しくない戦い方だな!」
「うるせぇなあ。そっちこそ、見た目ばっかり気にしてこんな小技だけか? そんなんじゃ、いつまで経っても倒せねぇぞ」
「それはどうかな? これで終わりだ!!」
ナルシィはニヤリと笑い、魔法を放つ。
すると、魔法は俺の周りを取り囲むように現れ、逃げ場を無くす。その上で、虹色に輝く巨大な魔法の塊が俺に向かって落ちていく。
ナルシィは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「はははは! 僕の美しい魔法の前にひれ伏すがいい!」
「……へぇ」
「な、何笑っているんだ!?」
「……これくらいじゃ、驚かねえよ。もっと強い奴と、とんでもねえバケモンと戦ったこともあるからな」
「ちっ! つまらない男だ。死ねぇ!!!」
ナルシィが魔法を放たれた瞬間、『俺』が消える。
「はああああ!?」
そして、ナルシィの首に剣が当てられる。
背後にいるのはラスティ。
「ラ、ラスティ!?」
「あれれ~、知らなかった? アタシの得意技は、剣舞と幻術。ネズ隊長の最愛の人、ラスティちゃんよ、よろしく★」
黒蝙蝠の幻魔剣士、色欲のラスティの顔と細剣が妖しく輝き笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます