第24話 寝たらかわいくなりました

「ネズ様……ネズ様に……幸せです……」


 エンはずっとうっとりしていた。なんか、とてもかわいい……。


「これからもゆっくりねっとり愛し合いましょう」


 ごめん、嘘だ。やっぱり女は怖い。なんだゆっくりねっとりって。


「あ、ああ、それよりどうだ? 調子は?」

「幸せ過ぎて、絶好調です。それに……久しぶりに心地よく眠れました。ネズ様と寝たけど、全然眠らせてもらえなかったのに、ぽ」


 俺がな。お前もスロウに負けず劣らずの引きこもりだったから体力ないはずなのに、すごすぎだろ。気持ちってすげえなあ。しかし、


「んん、やっぱり俺と一緒に『寝る』ってのは特別なんだろうな」

「はい、格別です」


 よし、もう黙ろう。とにかく、エンも大分回復できたみたいだし、そろそろ動き出すか。

 まだ、日は上り始め、まったく徹夜での討伐じゃなくて、すっきり寝た上で、朝日おがめて早朝から行動とは睡眠様様だな。


「行くぞ」

「はい、一緒に」


 エンの俺狂いは相当なもんだったが、パワーアップしてね?

 思いっきり俺の腕に絡みついてくる。


「エン、ちょっと歩きにくい」

「わかりました。でも、時々触れ合いたいです」

「ぐぬ!」


 寝るってすげえな。寝てない頃は、一回拒絶すると地の底まで沈んでたエンが、今は、ちゃんと理解を示して引き下がってくれる。けど、ちゃんと妥協案というかお願いをしてくる賢さもある。

 ちゃんと寝て色々安定すると、こうなれるのか。やっぱ隊長としてもう少しみんなの睡眠を確保するべきだったか。いや、『隊長が一番寝てないから』ってなんだかんだで無茶する奴らだったから、やっぱり俺がまず寝るべきだったんだろうな。


「ネズ様?」


 エンが長く伸びた前髪の隙間からこちらをじっと上目遣いで見てくるので、俺は頭を撫でてやる。


「わひゃ……ど、どうかしました?」

「いや、可愛くなったなあと思ってなあ」

「ぴぎゃ!? う、うえへへへへ……」


 エンは人差し指同士を合わせながら照れていた。

 うん、ウチの隊員はみんなかわいい。


「おはよう……」

「おはようございます……」


 そんな事を考えてると、驚いた顔のミアメアがやってくる。

 なんだ、寝不足か?


「どした? 二人とも?」

「どした? え、あ、いや……ネズと、エン、よね?」

「お二人、何かご自身に違和感は?」


 違和感?


「お前らの視線に違和感ありまくりなんだが……」


 なんだこいつら、人の顔をジロジロ見て……。


「ふふふ、ネズ様が寝てもっと男らしくなったから驚いてるんですよ」


 そう言って、エンが微笑む。かわいい。


「ネズ様……かっこいいです。また、食べちゃいたいくらい」


 前言撤回。ヤバい顔してる。


「……っ、分かった分かった。だけどな、俺の仕事はまだまだ残ってるんだよ。他の奴らを迎えに行かねえとな」

「そんな勤勉な人だったっけ?」

「寝たらやる気が出てきたんだよ」


 そう言うと、エンはクスリと笑う。

 くそっ、ペース崩されるな。


 そう思ってる時に丁度良くスロウ達が現れる。

 こいつ、本当にタイミングよすぎだろ。


「おはよーございまーす。いやあ、ネズ様の加護最高ですね。今日もよく眠れました」

「スロウ、俺はナルシィの所に行くぞ。ラスティがいるんだよな?」

「そうですね。じゃあ、僕はガナイさん達と一旦帝国に行っておきます」


 スロウには作戦と起こりうる想定を書き出してもらって指示を貰った。


「ラスティ……ネズ様、私も行きますね」


 エンは、妖しくにたりと笑うと、また、俺の腕をとって強く抱きしめながら口を開いた。


「お前ら本当に仲悪いよな? まあ、好きにしろ」


 準備を整え、アジトを出る。

 そして、ミア・メアともお別れだ。


「ミア、メア、ガナイも、元気でな」

「……はい、でも、必ず帝国に来てくださいね」

「あー、まあ、お前ら居るしな。出来るだけそうする」

「出来るだけじゃ駄目よ!絶対来なさい!」


 メアが怒鳴る。相変わらず気が強いな。

 メアとミアが俺の手を握り、キスをする。止める間もなく二人は順番に唇を重ねてくる。


「これはおまじないです! 必ず私達の元に帰ってくる為のお呪いですよ!」

「帝国に来なきゃ許さないからね!」


 そう言って、二人は俺から離れる。ちょっと瞳が潤んでた気がする。

 ああー! もう! どいつもこいつもかわいいくせに! なんで俺なんかに。


「ふふふ、ネズ様……かわいい」


 俺はエンにつつかれた頬が熱いのに気づいて、慌てて歩き出す。

 名残惜しい気持ちはあるが、判断は迅速に。

 俺の頭がそう言ってる。だから、


「じゃあな! また、すぐに会いに行くからな!」


 そう言って俺は次の仲間を助けに向かった。

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