第23話 寝たら働く気が湧いてきました
「あははははははははは! 浮気男は許さない! 寝取り女も許さない! 邪魔する奴らも許さない!」
黒蝙蝠の闇魔法使いエンが悪意に襲い掛かるゴースト共に暴れさせている。
エンの許さない対象に入ってる俺やミアメアも逃げ回る。
「ちょっと! あの子なんなのよ!」
「うーん、何故か俺にベタ惚れらしくてな。あと、独占欲が強い」
「独占欲強すぎですよ! あと、ベタ惚れの理由は、わ、私も分かりますよ……って、きゃあああああ!」
ゴースト共が山ほど襲い掛かってきやがる!
なんだったら、本来の敵であるシューセンドやメジマソクより俺らに来る方が多いんだが!?
「くそ! アイツらはまだ来ないのか!」
シューセンドは俺がやって来た方向を見ている。
「あー、お前の盗賊団は潰したぞ。来るのは、」
俺がそう言いかけた所で、どがんという音が鳴り響き、元貧民街の奴らがやってくる。
「な……あれは……まさか?」
「お前に嵌められた貧民街の奴らだ。ああ、そうそう、お前が盗賊のアジトに溜め込んでいた隠し財産は全部分配しといたから」
「はあああああああ!? きさ、貴様! 俺様の金をかえせええええ!」
シューセンドが目玉飛び出るんじゃないかってほどかっぴらいて俺を見てくる。
「んなもん、知るかボケ。そもそもお前が盗人みたいな事してたのが悪いんじゃねえか」
そもそも、コイツは節約節約と言って、黒蝙蝠の予算ばっかり下げてきやがった。
お陰で俺らは安宿雑魚寝。
待てよ。
「っていうことは……てめえのせいで、俺はずっと身の危険を感じて寝れなかったんじゃねえかあああ!」
なんだったら、宿が一番大変だった気がする。
女どもがなんでか俺の隣争奪戦を始めるし、その上、死ぬほど誘惑してくるし、なんだったら、襲ってこられた!
「ふざけるな! 俺は、俺がどれだけ苦労したと思って……!」
「俺だって苦労したよ! 怖くて怖くて仕方なかったよ! っていうかよ、苦労するならもっとマシな仕事しろよ」
「くっ」
「おい! 盗賊団と繋がっていたのか!?」
シューセンドとの会話で真面目なメジマソク君が噛みついてしまった。
「うるせえ!金が要るんだよ!」
おいおい。
シューセンドとメジマソクが揉め始めた。
まあ、丁度いい。そろそろ俺達の出番は終わりだ。
シューセンド達の後ろでは、ゴーストに蹂躙された大量の兵士が倒れている。
いやあ、弱いな。王国兵ってこんな弱かったんだな……。
「さてと、俺はアイツをなんとかするかあ」
エンがぶつぶつ呟きながらゴーストを生み出し続けている。闇が深い。
「ネズ様、ネズ様、ネズ様ぁあああああ!」
だけど、
「おい、エン。いい加減にしろ」
「はえ?」
俺はゴーストを掻い潜り、エンの目の前に。
そして、頭の上にぽんと手を置くと。
「ふへへへ、ネズ様……」
一瞬でゴーストたちは光に包まれ幸せそうに還って行った。 え、召された?
「……この子、チョロくないですか?」
「ネズ、この子見せられないくらいヤバい恍惚顔してるわよ」
見たくない。女の子のそんな顔見ちゃいけないだろう。
大人しくなったエン抱きかかえ、その場を去る。
元貧民街の奴らが一斉に流れ込んでくる。
王国兵もほぼ全滅。元貧民街の奴らの怒りは最高潮。準備は盗賊の塒で整えた。
あとは、腐っても七光であるあの二人だが。
「エン、頼みがある。あの二人の力を落としてほしい」
「ふへへへ、ふへ、ひひっひひ! ネズ様のお願いぃいい」
声がヤバい。溶けている。だが、流石エン、どろりとした魔力を放つと、シューセンドとメジマソクの身体を包み込む。
「あ、あれでぇ、弱体化して、ほぼ魔法は使えないはずですぅう」
エンの闇魔法はそっと忍び寄り、相手の力を奪うえげつない魔法だ。攻撃でも出来るがそれ以上にこのデバフ魔法がやばすぎる。
「いよっし! キン! 聞こえるか! アイツら二人は今すっげえ弱ぇえ! 思いっきりやっちまえ!」
「ありがとうございます! 旦那!」
遠くからキンの声が聞こえる。そして、元貧民街の奴等も吠えている。
戦力差もそうだが、気持ちの面でも圧倒的だな。
「くそ! ネズ! 貴様! 俺様の街をよくもこんなに! 大損だ! だ、大体、お前こんなやつじゃなかっただろ! お前はもっと自由気ままで。国の為に働くような」
「は! そもそも、今も国の為ってわけじゃない。まあ、民の為って事にはなるんだろうが……そうだな、強いて言うなら」
俺はシューセンドのけち臭そうな顔を見て言ってやる。
「ちゃんと寝たら働く気も出て来たわ」
寝ることも出来なくて、働く気が起きるかよ。
「待て! ネズ! 一体どういうことだ!? あの騒ぎは」
「メジマソク。俺は、融通はきかねえがお前の事は七光の中で一番信頼してる。お前の理想の敵は誰かちゃんと考えろ。お前は真面目に働きすぎだ。ちょっと寝た方がいい。じゃあな!」
俺は、ゼニスを後にする。
クレアを迎えに行く段取りはつけてるし、夜が明けたら残り一日だ。
あと、二人。
行ってやらないとな。とはいえ、少しは寝よう。
そっちの方が良い。
そう思えるだけ、マシになったかもな。
俺達は、アジトに戻り、朝の出発までのわずかな時間を仮眠に当てる。
「ネズ様……」
「おう、エンか。お前、全然寝てなかったんだろ? 目の隈ひでえぞ。ゆっくり寝ろ」
エンが俺の所にやってきたが、最後に会った時よりもひどい隈だった。
「すみません……ネズ様が生きてるか不安で不安で……眠れなくて」
「そうか……すまなかったな……」
コイツはやばいヤツではあるけど、それだけ思いが強い奴だ。
一人ぼっちだったところを俺が連れ去って、黒蝙蝠に入って、仲間を知って、寂しいという感情を知ってしまった。
「いひ、いえいえ。お詫びの言葉なんて要りません。代わりに」
「代わりに?」
「身体で払ってください」
「は?」
急にエンの顔が豹変した。前言撤回。怖すぎる。
「あの女どもと関係もったんですよね? どんなことしたかアイツ等の守護霊に聞きました」
そんなの出来るの?
「で、聞いたところによると、他にも色んな女とだそうで」
だから嫌だったんだ。こうやってどんどん雪崩式で抱かなきゃいけない女が増えていく!
寝れねえじゃねえかよ!
「ネズ様、みんなと身体の関係を持ったなら。アタシから逃れられると思わないでくださいね……」
「分かってるよ! やってやらあ!」
もう十分仕事したはずなのに! 最後の大仕事じゃねえか!
「よ、よろしくお願いします……」
エンと寝た。
とってもかわいかったです! 以上!
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