第22話 寝たら嫉妬されました
俺の体感では一時間程度、実際は一瞬という超効率的な眠りから覚め行動をし始める。
「ほんじゃあ、暴れてくる」
俺は、仮面をつけ、膝と手が名残惜しそうなミア・メアを連れて駆け出すとゼニスに正門をぶち破って突入する。
大軍が現れるが関係ない。俺達は神速の剣技で圧倒し続ける。
すると、シューセンドとメジマソクがやってくる。エンを連れて。
エンは寝てなかったんだろうか。相変わらず目にクマを作ってやがる。
ていうか、なんかずっとぶつぶつ言ってる。こええ……。
「あれが、ネズの隊員の一人?」
「ああ……」
黒髪の長い髪を伸ばしっぱなし、美人なのにもったいねえというと「あへあへ」と笑って、結局伸ばしっぱなし、超絶暗い女がエンだ。
「おい! 帝国軍! お前らの狙いはわかっているぞ! この魔導士を助けに来たのだろう!? スロウの仲間である以上魂胆は見えている。こいつを助けてほしくば、首飾りを寄越せ!」
俺は仮面によって顔も隠れてるし、声も変わっているので、帝国軍扱い。
交渉しようとしているのがメジマソクらしいっちゃらしい。
だが、こっちよりも敵は隣にいるようだ。
七光【節制】のシューセンドが、メジマソクの行動が気に入らないようで、自慢のオールバックが乱れるのも構わず噛みついている。
「おい! お前はさっきから俺様の街で勝手な行動を!」
「やかましい! あの首飾りは帝国との交渉材料となるのだ! 帝国に逃げる前に取り返す! さあ、どうする!?」
エンの首筋にメジマソクのナイフが当てられる。エンはそれをみて自分の首を当て始める。
「うわ! お前何をするつもりだ!」
「あの人の居ない世界なんて興味ないのよ……死ぬ」
「だから、ネズはまだ生きてると言っただろう!」
「じゃあ、なんで迎えに来てくれないの……? 死ぬわ!!」
エンが大暴れしてる。相変わらず困ったちゃんだなあ……。
俺は捕まえた兵を思い切りハンマーのように振り回し、兵たちを遠ざける。
「おいおいおい! シューセンド、メジマソク、俺だよ、俺!」
「な……!」
「その不遜な物言い……お前!」
シューセンドとメジマソクは、もしやと顔を見合わせる。
エンは、血走った目でこちらを凝視している。視線だけで死にそうだ。
俺は、エンの様子を見て苦笑いしながら、仮面を取り外す。
「よお、エン。迎えに来たぞ」
「あ……ネズ様だ……」
エンは俺の顔を見ると涙を流す。俺も泣きそうだった。色んな意味で。だって、エンの足元から黒いのが漏れている。まずいな……。
「ネズ!?お、お前、いつの間に……!王都に居たはずでは……!」
驚くシューセンド。
情報がおせえな。まあ、それだけ七光同士で足を引っ張り合ってるってことなんだろうけど。
「というか、何故お前が帝国と繋がっている!?」
「知らん。ウチの頭脳が考えたことだ。まあ、そんな事はどうでもいいだろ。それより、その女を渡してもらおうか。大変な事になる前に」
「断る」
「マジでいいのか。大変な事になるぞ。本当に大変な事になるぞ。大変なことになるんだぞ?」
「なんで三回言う!?」
シューセンドがそう言うが、本当に大変な事になるからな。
「もう忠告したからな……隣の女に気を付けろよ」
シューセンドとメジマソクがエンを見ると、今度はエンの全身から真っ黒な闇の魔力が溢れていた。
「ねえ、ネズ様……その女どもは誰? 浮気は許さないわよ……」
やべえ、流れ弾が来た。
「いや、別にお前とも付き合ってねえし。こいつはスロウの知り合いでな。ついでで手伝ってるだけだ。な?」
「ええ、ただの身体の関係ですわ」
「ええ、とっても深い、ね?」
おいいいいい! ミアメア!
まずい……町全体が闇に染まり始めた。
「あは、あははははあははは! ……ふーん、じゃあ、全員潰すわ」
エンは笑いながら闇魔法を展開し始める。
……よし、逃げるか。
エンの闇魔法によって、ゴーストが大量に現れ無差別に襲い始める。
とはいえ、あのゴーストは悪意に反応する。民衆には被害はほぼないか。
ただ、俺とミアメアは悪と判断されたらしい。
襲い掛かってくる! おおい!
黒蝙蝠で一番恐ろしい闇魔法暴走女、嫉妬のエンの暴走が始まった。
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