第21話 寝たら強くなっていました

「あの、ネズ様。これからどうしますか?」

「そうだな、とりあえず、アジトの宝を頂いていこうかな」


 クレアの問いかけに俺はそう言って洞窟の奥に入っていった。その後をクレアや貧民街の奴らもついてくる。

 洞窟の中には金銀財宝が山ほどあった。更に、その奥には封印を施された部屋。

 俺が全力の魔力を込めて扉を殴ると、ばきいという音を立てて、扉が壊れる。

 こうなれば封印魔法もへったくれもない。


「っていうか、扉が弱すぎだろ。……シューセンドめ、やっぱケチだな」


 破壊された扉の奥、その中にはシューセンドのものらしき財宝があった。さっきの金銀財宝の量に比べれば少ないが、質は段違いのようだ。


「スロウの予想通り、ヤツがグルだったってことだな」


 シューセンドが金を出して良識ある商人に仕事を与える。

 情報が筒抜けで、商人たちは盗賊に襲われる。

 分け前をシューセンドが受け取り、更にシューセンドに従うあくどい商人だけが生き残る。

 そうして、溜め込まれた最悪の財宝ってわけだ。


 俺はそれらを全て貧民街の奴らに分け与えて行く。

 キンがテキパキと指示を出し、それにみんながちゃんと従うお陰であっという間だな。キンが達成感溢れる顔で近づいてくる。


「こんなものですかね」

「だな。さて、お前らはどうする?」

「そうですね、ご提案頂いた通り、最終的にはここで暮らそうかと。」

「ああ、それがいい。これからあそこは大変なことになるだろうし」


 これもスロウの提案だ。

 洞窟の中は金を使ったのだろう。盗賊のアジトとは思えないほど整っていたし、大勢で暮らしても、ルールさえ作れば問題なさそうだった。

 俺はキン達貧民街のメンバーを見る。皆ボロボロだが、希望に満ちた目をしている。

 クレアは俺の裾を引っ張ってきた。

 俺がクレアを見て微笑むとクレアは頬を赤く染めて俯く。


「あの、私は、ネズさんと……」

「あー、まあ、お前が望むなら止めねえが、暫くはここに居てやってくれねえか。お前の力が必要だろうから」

「はい……わかりました」


 クレアは少し残念そうな顔をした。随分と変わったな。いや、俺が変えてしまったのか。いずれにせよ、責任は俺にあるだろう。


「じゃ、また後でな」


 俺はそう言って頭を撫でてやると、クレアは顔を輝かせ、


「はい!」


 俺はゼニスへと戻った。

 ゼニスに戻る途中、大軍を率いた魔導馬車がこちらにやってくるのが見えた。

 どうやら事は進んでいるようだな。


「メジマソクの軍だろうな」


 俺は、それを見ながら、ゼニスの外で待機していたスロウ達と合流する。


「待たせたな」

「いえー、僕達も隊長が出て行ったのを見計らって撤退した後は、来るまでゆっくりしてました。まあ、ミア・メアは早く帰ってこないかとそわそわしてましたけどね」

「「してないから!」」


 ミアメアが仲良く揃って反論してくる。


「まあ、俺なんぞ気にかけなくていいさ」

「「よくないでしょ!」」


 なんだ、こいつらめんどくせえな。

 こういう時は別の話題に変えるに限る。この辺りはウチの連中でしっかり学んだからな。スロウを見ると、ゆっくり頷く。

 いや、お前が撒いた種だからな。


「一先ず、待ちか?」

「そうですね、メジマソクとシューセンドが出会ってからですかね」

「じゃあ、ちっと寝るわ」

「ええ、どうぞどうぞ。僕達は十分休めましたし、隊長は少しでも寝て頂いた方が多分いいでしょうから」


 スロウの予想と俺の実戦での実験で分かり始めてきた。

 アイツが、あの魔人らしき野郎がくれた力は、とんでもないものだったようだ。

 だけど、今はゆっくり試している暇はない。

 寝られる時に寝て、力をつけ、みんなを救い出す。

 ごちゃごちゃしたことはスロウが考えてくれるし、後片付けはライカやプリンがやってくれる。

 俺の今やるべきことは寝ることだ。




「なんだけど、お前ら、何やってんの?」


 ミアがぱちぱちと座ってる膝を叩いてこっちを見てる。

 メアが手を差し出している。


 いや、普通に寝るぞ。

 今度こそ、マジで。

 ミア・メアこっち見んな。俺は本気で寝る。


 残念そうに見るな、お前ら。


「ん」「ん」

「だああああ! わかったよ!」


 ミア・メアの視線に耐えられず、ミアに腕枕をしてもらい、メアに手を繋がれ、眠る。


 なんだこれ、いや、まあ、気持ちいいけどさ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る