第15話 寝たら帝国と繋がりました

「隊長、大変だ」


 スロウが口を開く。嫌な予感がする。


「疲れた。眠い。もう休もう」


 まだ日も沈んでいないんだが、スロウは欠伸をし始めた。


「しょうがねえな。休むところに心当たりはあるのか?」

「ゼニスの手前にあるネーマに僕が投資した宿があります。そこで休みましょ~」


 スロウの考えることは分からねえ。

 ただ、コイツは動かなくても脳をフル回転させてやがるから頭が疲れやすい。

 そして、コイツは訳もなく休むなんて言わない。

 それを帝国の三人も分かっているんだろう。何も言わない。

 ただ、


「そこでは宿代として俺の身体で支払えってのはないよな?」

「大丈夫、それはないです」


 その言葉に安堵を覚えた俺は、寝られるんなら願ったりかなったりと、意気揚々とネーマの街へ入っていった。



「で、なんでお前らが、俺のベッドに潜り込んでるんだよ!」


 俺の両脇には、仮面を外したメア・ミア姉妹がいた。

 二人はそっくりでとてつもない美人顔だった。じゃなくて!


「そ、そのお前ほどの強者が帝国に来れば、我々としても助かるのだ……だから、どちらかと契りを結んでくれ! 勿論、両方でも構わないぞ! お前ほどの実力者であれば父上も文句ないに違いない!」


 メアが必死に訴えてくる。


「ネズ、私からもお願いします。首飾りを取り返して下さったお礼としても。それに、ご安心ください。父上も、多くの妻を持ち、沢山の子を生んでおりますし、自分の認める強者と交われと日頃から仰っていますので」


 今度はミアが言う。いや、どんな教育をしてんだよ! 皇帝さんよお!


「断る。俺は俺のやりたいようにする」

「くっ、こうなったら……」


 メアが俺の上に覆いかぶさってくる。


「おい! お前ら、何するつもりだ!」

「既成事実を作ってしまえばこちらのもの。お前は断れないはずだ」

「ネズ! お願い! 私たちを好きにしていいから!」

「はぁ!? これのどこが好きにしていいだよ!」


 メアとミアが服を脱ぎ始める。凄い綺麗な身体、じゃなくて!


「やめろ! 俺はそんなつもりは無い!」

「大丈夫、優しくするから」

「いや! それは俺の台詞だろう、本来!」

「そうです。気持ちよくなりましょうね」


 ……ダメだこりゃ。俺は抵抗を諦めた。


「……隊長、起きてください」

「うーん、もう少し寝かせてくれ。……大体、スロウ。お前分かってこの宿で『休憩』させたんだろ」

「さあ、なんのことやら。まあ、いいじゃないですか。これで帝国へ逃げることも可能になったわけですし」


 俺はさっきまでのことを思い出す。

 結局、俺は二人にされるがままになっていた。

 二人のテクニックは凄まじかった。帝国の妃教育は恐ろしいな。

 マリー三姉妹にヘロヘロにされた俺の息子が一瞬で元気になるほどに凄まじい技術だった。

 俺は二人から解放された後、すぐに眠りについた。

 そして、相変わらずわずかな時間で十分な睡眠がとれ、今に至る。


「帝国に、行くのか……?」

「今は、そのルートが、一番可能性が高いですね~。あそこは分かりやすく実力主義ですし。お二人も、悪い子ではなかったでしょ?」


 まだ眠っている二人を見ると、気持ちよさそうにすやすやと穏やかな笑顔で眠っている。

 今まで気を張っていたところがあったのかもしれない。

 年相応の様子に思わず笑ってしまう。


「ガナイは、大丈夫なのか? アイツ、多分、コイツ等のお目付け役だろ」

「ああ、もう了承は得ていますよ。強い血を欲するのが帝国ですから。それに……多分、隊長のとは比にならない程度ではありますが、隊長と一緒に寝た女性は、力が増しているようですよ」

「は?」

「二人とも魔力が上がっていますし、能力も上がっているようです。これもきっとあの神の恩恵でしょうかね。というわけで、帝国的には得しかありません。では、いきましょうか」


 この男はどこまで見えているのか。


 この『休憩』で、間違いなくこの二人に情を持ってしまった。

 そして、こんないい女達が育てられた帝国にも。


 だが、帝国に行くのはまだ先だ。

 仲間を全員救い出す。話はそれからだ。

 俺は、ベッドから立ち上がり、準備を始める。


「ああ、そうそう。隊長、どっちの方がよかったですか~?」

「は?」


 スロウらしからぬ発言。アイツがそんなことに興味を持つはずがない。


「ガナイさん曰く、帝国は男性も女性も負けず嫌いだそうですからね」


 そう言ってスロウは去って行く。なんだ、聞きたかったわけじゃないのか?

 ……いや、待て。

 後ろから鋭い視線を感じる。

 振りかえると、ミアとメアがじっとこちらを見つめている。


「どっち?」

「どっちですか?」


 俺は無言で、準備を始めるために、部屋を出た。

 ああ、マジでドンドン安眠の日が遠ざかってる気がする……。


 さあ、日が暮れる前に、行ってしまおう! うん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る