第9話 寝たら悪を粉砕出来ました

「ははははははは! 私に歯向かった罰だ! お前にはここで死んでもらう! 狂え! 部下共! 暴れろ!」

「うあがあああああ!」


 どこからか現れた正気を失った目のギゼインの部下が一斉に襲ってくる。


「邪魔する奴らは全員ぶっとばす!」

「「ぎゃあああああああああ!」」


 部下達が一瞬にして吹き飛ばされる。

 ふむ、もう本調子って言ってもいいくらいだな。


「む、無茶苦茶だな……」

「流石、『私達の』隊長!」

「ええ、『私達の』隊長ならこれくらい屁でもありませんわ!」


 『私達の』を強調してくる。滅茶苦茶怖い……。

 やっぱ早まったかなあ……。


「では、私達もそろそろ隊長に良い所を見せねばな」

「ええ……!」


 ライカが、身体に火の魔力を漲らせ、構える。


「貴様らを、怒りのまま、滅す……!」


 そして、咆哮をあげたかと思うと、大軍に飛び込み、全てを吹き飛ばしていく。


「ふふ……ネズ様がみてるからって、はしゃいで……まあ、分かりますけどね……!」


 俺達に向かって飛びこんでくる奴らは、イリアの氷の壁によって阻まれ、そのまま凍らされていく。


「痴れ者が……わたくしやネズ様に触れようなどと百年早いわ……」

「や、やはり化け物ばかりだな……お前のところは……」


 リタが顔を引き攣らせながら呟いている。


「【憤怒】のライカ、噂に違わぬ武力。対人戦最強と言われるだけある。【傲慢】のイリア、魔力操作技術を活かした完璧な防御。黒蝙蝠の矛と盾」

「お前も流石だよ。ちゃーんとそういう情報を入手出来てるとはな」

「ほ、褒められても嬉しくないぞ!」


 ぷいとそっぽは向くが、顔は嬉しそうにもにゃもにゃしてる。おもしれ―奴だ。

 それに、ウチの奴らが褒められるのは悪くない気分だ。アイツら、いい女だもんな。


「さて、惚れた女にばっか苦労させるわけにもいかねーからな。決着つけるか、ギゼイン」

「おのれええ! よくも私の配下を……私自ら相手をしてくれる!」


 ギゼインが俺に向かって突っ込んでくる。


「お前は私が殺す!」

「やってみろおお!」


 俺はギゼインの斬撃を受け止める。ギゼインは驚きながらも何度も色んな角度から攻撃を仕掛けてくるが、それもが躱され、止められ、吹っ飛ばされる。


「なぜだ!?なぜお前がそこまで動ける」

「寝たからだ」

「はあ?」

「寝たら体力が戻ってきた。当たり前だろう?」


 俺は拳でギゼインの腹に一撃を入れる。

 ギゼインは吹っ飛んで壁に激突する。

 寝たら、力が戻ってきた。そんな当たり前の事さえ出来てなかった以前に笑えてくる。


「さあ、終わりにしようぜ。ギゼイン」


 俺はゆっくりと歩きながらギゼインに近づく。


「来るな……来ないでくれ……!私は……私は……!正義なんだ……!皆の……希望の……!」


 ギゼインは怯えた表情を浮かべている。


「お前は俺を怒らせた。俺の大切な仲間を傷つけようとした。だから、お前は絶対に許さない。俺の仲間に手を出したらどうなるかを、お前に教えてやらないとな」


 俺はそう言ってギゼインの顔を思いっきり殴った。

 ギゼインの鼻から血が流れる。


「ひぃいい……!嫌だ……死にたくない……」

「安心しろ。殺しはしない。だが、償って貰おうか?」

「何をすれば……良いというのだ……。私は……正義だぞ……?こんな事をして許されるはずがない!この国を守る為なのだ!私に力を貸すべきだろう!」

「ふざけんなよ。お前は自分勝手すぎるんだよ。お前のせいで一体何人の人が傷ついたと思ってんだ。その人達にも謝って、これからはちゃんと罪を認めて生きていけ」

「い、嫌だああああ! だってそうだろ!? 私が七光! 英雄であり正義の味方なんだ! 私の方が正しいに決まっている! お前が偽物の英雄で私が本物なんだああああああああああああ!!!」


 ギゼインはそう叫びながら、剣を振り回してくる。

 俺はそれを軽く避けて、ギゼインの顔面に蹴りを入れた。


「ぐふぅう……!」

「正義ってのはよ、てめえだけが笑うもんじゃねえだろ。てめえの都合の良い世界じゃねえだろ。そんなのが正義ってんなら、何度だって潰してやるよ」


 ギゼインは倒れたまま動かなくなった。気絶したのか。


「はは……やっぱり……ネズ様はお強いですわね……」


 イリアがフラつきながらも近寄ってくる。やはり、はしゃぎすぎてたみたいだ。

 余り寝れてなかったのが、顔に出てたしな。ライカも全部倒したものの、大の字になって寝ている。


「無理すんなって。休んでな」

「いえ、ちゃんと約束を果たしてもらわねば。さあ、いきましょう!宿へ!子を成しましょう」

「おい! イリア、待て! 私が先だ!」


 ライカも起き上がって、飛び込んでくる。

 お前ら、寝てないのに元気じゃねえか……全く。


「どうされました? 隊長」

「いや、俺にとってはお前らの笑顔が一番だわ」


 二人は、俺に抱きつく力を強めてぎゅっと俺の腕に顔を埋める。二人の顔が熱くて、笑ってしまう。

 ま、かわいいは正義ってヤツだ。

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